相続の手続きを進めていると、被相続人(亡くなられた方)の戸籍の提出が必要な場面が多々あります。

この記事では、以下の2点を解説します。

  • 相続手続きで被相続人や相続人の戸籍が必要な理由
  • 相続人調査(戸籍収集)が不十分な場合に起こる問題

相続人を確定するために戸籍が必要

相続手続きを進める中で、被相続人(亡くなった人)の出生から死亡するまで(現在まで)の戸籍が必要と言われることがよくあります。

なぜ戸籍が必要となるのでしょうか。

簡単にご説明しますと、「相続人を確定させるため」に戸籍が必要となるのです。

被相続人の戸籍を確認することで、被相続人と相続人との間柄(続柄)を確認することができます。

相続手続きを進めるには、すべての相続人が判明していなければなりません。

例えば、遺産分割協議をするにしても、一部の相続人が判明していなかったなどの理由から不参加であった場合、その遺産分割協議は無効となります。

このため、相続では必ず被相続人の戸籍を調べなければならないのですね。

被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍が必要

上でかるく触れましたが、相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍が必要となります。

なぜ、出生から死亡までなのか?

現在の戸籍だけではいけないのか?

と思ってしまいますよね。そもそも、「えっ、現在のってことは、戸籍っていくつもあるの?」と思ったでしょう。

戸籍とは、例えば、本籍を他の市区町村へ移した(転籍)場合は、転籍先の市区町村で新たに戸籍が編製(作成)され、転籍元の市区町村の戸籍は除籍されます。

また、法律や命令によって戸籍の様式が改められた(改製)場合は、この法律や命令に合致するように、従前の戸籍は新しい様式に改められます。改製前の戸籍は除籍となります。

このようにして、現在の戸籍となる前に、いくつもの除籍が存在しているわけですね。

除籍とは、もう使われなくなった戸籍のことを言います。

さて、話を戻します。

相続手続きでは、「なぜ現在の戸籍だけ確認するのではダメなのか?」でしたね。

さきほど、相続で被相続人の戸籍が必要なのは、「相続人を確定させるため」とお話しました。

つまり、戸籍の記載から、被相続人の子はだれだれ、といった情報が読み取れなければなりません

しかし、上で説明した転籍改製があると、新しく編製された戸籍には、既に婚姻や死亡によって除籍された人は記載されないのです。

※婚姻した人、死亡した人などは、戸籍から除籍されます。

たとえば、子が結婚して父母の戸籍を抜けた(除籍)後、父母の戸籍が転籍によって、新しく編製されたとします。

すると、父母の転籍先の市区町村で管理される戸籍簿には、従前の転籍前の戸籍に記載されていた子についての情報は記載されません。

つまり、転籍後の「現在の戸籍」だけ確認した段階では、子の存在が確認できないわけです。

相続のときに、現在の戸籍だけ確認して「あ、この方には子がいなかったんだ。故人とその配偶者の記載しかない!」なんて判断をしてしまうと、本来相続人であるはずの子を見落としてしまうわけです。

つまり、現在の戸籍だけでは足りず、被相続人の出生から死亡までの戸籍が必要となるわけですね。

相続人調査(戸籍収集)が不十分で相続手続きを進めた場合

では、戸籍の調査が不十分で、相続人を見落としてしまった場合、どうなってしまうのでしょう。

既にお話したように、遺産分割協議を有効に行うことができないので、相続手続きが進みません。

他にも、被相続人名義の銀行預金の払戻しを受ける際も、相続人の全員が判明している必要があります。

仮に相続人の確認が不十分なまま遺産分割協議が終了し、財産を処分してしまった後に、実は被相続人には認知した子がいたなどの場合もあります。

そして、相続人の調査を不十分なまま相続手続きを進めたことに関して、その子から損害賠償を請求される、なんてことがあるかもしれません。

このように、相続手続きを円滑に進めるためにも、相続人を確定させるための戸籍の調査は非常に重要といえます。

戸籍の調査は骨が折れる上に、時間と労力がかかります。とはいえ、相続手続きを進めるために、時間もあまりかけてはいられません。

不安な場合は、行政書士などの専門家に依頼するのも手でしょう。

まとめ

相続手続きで戸籍が必要な理由、相続人調査(戸籍収集)が不十分な状態で手続きを進めた場合の問題点を解説しました。戸籍とは普段扱うことがないので、なかなか戸惑うこともあるでしょうが、相続は必ずやってきます。難しいならお一人で悩まず、相続人調査は専門家に任せるなども選択肢に入れましょう。