被相続人名義の建物に居住していた配偶者が、被相続人の相続開始後も建物に引き続き居住できるよう保護する方策が配偶者居住権です。

配偶者居住権には登記請求権が認められており、登記を備えることで第三者への対抗力を持ちます。

この記事では、配偶者居住権と登記について解説していきます。

この記事でわかること
  • 配偶者居住権と配偶者の登記請求権について
  • 配偶者居住権の第三者対抗要件とは
  • 配偶者と敷地所有者、抵当権者との関係
  • 配偶者居住権に基づく妨害排除請求について
配偶者居住権の仕組み、成立要件、施行日について

配偶者に居住建物の無償使用を認める配偶者居住権の仕組みや成立要件、施行日についてわかりやすく解説しています。

配偶者居住権とは?制度の内容・成立要件・施行日をわかりやすく解説!

配偶者居住権には登記請求権が認められています

配偶者居住権を取得した配偶者には、居住建物の所有者に対して、登記請求権が認められています。この場合、配偶者が登記権利者であり、建物所有者が登記義務者となります。

注意することとして、配偶者はあくまで建物所有者と共同で登記申請ができるのであって、配偶者が単独で登記申請をできるわけではありません。

このとおり、配偶者居住権の登記義務者は建物所有者なので、そもそも「被相続人から建物所有者への相続を原因とする所有権移転の登記等」を事前に行っておく必要があります。

もしも相続を原因とする登記等が未了の場合、配偶者は配偶者居住権の設定登記の前提として、保存行為により相続を原因とする所有権移転の登記等を申請しておくことが必要です。

配偶者居住権の第三者対抗要件とは「登記」です

配偶者居住権の第三者対抗要件とは、配偶者居住権の登記です。登記をすることで、第三者に対して、居住建物への配偶者居住権を対抗できます。

対抗できるとは、その建物に対する権利を第三者に主張できるということです。その結果、配偶者は第三者からの退去請求に応じることなく、安心して配偶者居住権により、居住建物を使用することができるのです。

以降では、登記を備えた配偶者と第三者との関係を解説していきます。

建物所有者・建物所有権を譲り受けた第三者との関係

配偶者は、遺産分割によって建物の所有権を取得した相続人に対して、配偶者居住権を主張することができます。

また、建物所有者から建物所有権を譲り受けた第三者に対しては、配偶者居住権の登記をしていることで、対抗することができます。

居住建物の抵当権者との関係

居住建物に抵当権が設定されており、抵当権が実行されれば、居住者は建物を明け渡さなければなりませんね。これは配偶者居住権により居住する配偶者も同様です。

ですが、配偶者居住権の設定登記が先にされており、その後から抵当権設定登記がされている場合には、登記の順番から配偶者が抵当権者に勝ります

つまり、抵当権が実行されても、配偶者は居住建物を取得した第三者に対抗することが可能です。

居住建物の占有妨害に対して可能な措置

配偶者居住権を取得し、登記による対抗要件を備えた配偶者は、居住建物の占有を第三者に妨害された場合、当該第三者に対して妨害の停止請求ができます。

さらに、第三者が居住建物を占有しているときは、当該第三者に対して返還請求をすることができます。

居住建物が立つ敷地所有者との関係

居住建物とその敷地は別々の不動産です。配偶者が取得できるのは、建物に対する配偶者居住権です。

ここで、被相続人から建物と敷地の所有権を相続した相続人が、敷地だけ第三者に譲渡(売却)したようなケースを考えてみます。

このとき、建物のために敷地利用権(賃借権や地上権)が設定されているならば、配偶者はその敷地利用権に基づいて建物を使用することができます。仮に第三者から建物からの退去を請求されたとしても、これを拒むことができます。

ですが、もしも敷地の譲渡の際に、建物のための敷地利用権が設定されていなかった場合、配偶者は敷地を利用する権利がないため、第三者からの退去請求を拒むことができないとされています。

配偶者居住権の登記・対抗要件を規定する民法1031条と関連規定

ここまで解説してきました、配偶者居住権の登記請求権と対抗要件を規定する民法条文と、関連する規定を以下に引用します。

(配偶者居住権の登記等)
第千三十一条 居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。
2 第六百五条の規定は配偶者居住権について、第六百五条の四の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。

(不動産賃貸借の対抗力)
第六百五条 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

(不動産の賃借人による妨害の停止の請求等)
第六百五条の四 不動産の賃借人は、第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。
一 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求
二 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求

(出典:e-gov-民法)

まとめ

配偶者居住権と登記請求権、第三者対抗要件について解説してきました。配偶者居住権は配偶者にとって大変有益な権利ではありますが、登記を備えない間は不安定な権利となります。配偶者居住権を取得した後、速やかに登記申請手続きを行うと良いでしょう。