被相続人の相続開始後も、配偶者が安心して居住建物に住み続けるための方策として配偶者短期居住権があります。
この記事では、配偶者短期居住権を有する配偶者が、居住建物を使用する上で守らなければならない規定(ルール)について解説します。
規定違反があった場合、配偶者短期居住権が消滅することもあるので、注意が必要です。
- 配偶者が居住建物を使用する上で守るべき義務
- 配偶者短期居住権の消滅について
配偶者短期居住権とは?施行日はいつ?
配偶者短期居住権とは何か、制度の内容、権利の存続期間、施行日については下記記事にてくわしく解説しています。ぜひお読みください。
配偶者短期居住権とは?制度の内容・成立要件・存続期間・施行日を解説
配偶者短期居住権における居住建物使用上のルール
配偶者短期居住権に基づき配偶者は居住建物の使用ができるわけですが、使用においていくつか規定(ルール)があります。
規定違反があった場合、配偶者短期居住権が消滅することもあるのでしっかり理解しておきましょう。
配偶者は従前の用法に従い居住建物を使用できる/善管注意義務
まず、配偶者は居住建物を従前の用法に従い使用することができます。簡単に言えば、相続開始前と同様の使い方をしてください、ということです。
例えば、配偶者が相続開始前に居住建物を住居兼店舗として使用していたのであれば、店舗として使用していた部分については、引き続き店舗として使用可能ということです。
また、配偶者は居住建物を使用するにあたり、善管注意義務を負います。
善管注意義務とは、「善良なる管理者の注意義務」のことで、一般的・客観的に要求される程度の注意をしなければならないという注意義務を言います。
つまり、配偶者短期居住権の存続期間が過ぎれば居住建物は本来の帰属先(居住建物取得者)へと引き渡されることになるため、落ち度で損傷させることなく、しっかりと管理してくださいね、というイメージです。
居住建物の第三者使用と居住建物取得者の承諾
配偶者は相続や遺贈で居住建物を取得した者(居住建物取得者)の承諾を得なければ、居住建物を第三者に使用させることができないとされています。
また配偶者の他に相続人が複数いて、遺産分割が未実施の場合、居住建物は相続人の全員で共有している状態となります。この場合、配偶者を除く他の相続人全員の承諾がなければ居住建物を第三者に使用させることはできません。
ただし、配偶者を介護するために親族が同居をするような場合は、ここでいう「第三者の使用」には該当しないので、居住建物取得者の承諾は不要とされています。
配偶者の規定違反と配偶者短期居住権の消滅請求
ここまで配偶者の居住建物を使用する上での注意事項(ルール)を解説してきました。
そして、もしも配偶者が善管注意義務に違反した場合や、居住建物取得者の承諾なく第三者に居住建物を使用させたような場合、居住建物取得者は配偶者短期居住権の消滅を請求することができます。
配偶者による使用規定:民法1038条
ここまで解説してきました、配偶者短期居住権に基づく配偶者の居住建物使用について規定する民法1038条を以下に引用します。
(配偶者による使用)
第千三十八条 配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。
2 配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。
3 配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。
(出典:e-gov-民法)
配偶者居住権を取得したことによる配偶者短期居住権の消滅
配偶者短期居住権という権利の他に、配偶者居住権という権利が創設されました。言葉の上では「短期」の有無が違いですが、配偶者短期居住権に比べ、配偶者居住権の方が手厚い保護になっています。
詳しいことは別の記事で解説しますが、具体的には登記請求権や第三者対抗力が配偶者居住権には認められています。
そのため、配偶者短期居住権を有する配偶者がその後、配偶者居住権を取得した場合、配偶者短期居住権は消滅します。
以下、民法1039条に規定があります。
(配偶者居住権の取得による配偶者短期居住権の消滅)
第千三十九条 配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅する。(出典:e-gov-民法)
まとめ
配偶者短期居住権を有する配偶者が、居住建物を使用する上で注意すべき義務規定について解説しました。規定違反があった場合、居住建物取得者から配偶者短期居住権の消滅請求をされる恐れがあるので、くれぐれも注意して使用しましょう。