相続開始後も配偶者が安心して居住建物に暮らせるよう、一定期間の居住権を認めた配偶者短期居住権について、以下の内容を解説していきます。

この記事でわかること
  • 配偶者短期居住権の内容、成立要件、存続期間
  • 配偶者短期居住権の施行日
  • 配偶者短期居住権の条文「民法1037条」
配偶者居住権について

同様の制度に配偶者居住権があります。その仕組み、成立要件、施行日については以下の記事をご覧ください。

配偶者居住権とは?制度の内容・成立要件・施行日をわかりやすく解説!

配偶者短期居住権ができた背景:相続での居住建物に関する問題点

配偶者短期居住権という制度が創設された背景として、相続における問題点をご説明するために、次のようなケースを考えてみます。

被相続人とその配偶者は住み慣れた家に長年暮らしていました。ですが被相続人が亡くなったことで相続が開始したとします。

もしも被相続人が遺言で居住建物を第三者に遺贈していた場合や、遺産分割協議で配偶者以外の相続人(子など)が建物を相続したような場合、配偶者は居住建物から退去しなくてはなりません

仮にその他の財産を相続できたとしても、住み慣れた家を手放すのは辛いですし、何より配偶者も高齢でこれから新居を探すのは精神的にも体力的にも困難なはずです。

このような理由から、遺された配偶者の居住権を保護する必要性が高まり、配偶者短期居住権という制度が創設されました。

配偶者短期居住権とは?

配偶者短期居住権について、権利の内容、成立要件、存続期間について解説していきます。

配偶者短期居住権の内容:配偶者が無償で居住建物を使用できる

配偶者短期居住権によって一定の期間ではありますが、配偶者は相続開始時まで居住していた建物を、引き続き無償で使用できます

仮に被相続人が第三者に居住建物を遺贈したり、または遺産分割で配偶者以外の相続人に居住建物の所有権が移ったとしても、期間が到来するまで配偶者短期居住権によって引き続き居住できるのです。

ただし注意することとして、相続開始まで配偶者が居住建物の一部のみを使用してきた場合、配偶者短期居住権によって引き続き使用できるのは、その一部のみです。

例えば、2階建ての家で、配偶者が2階を居宅として使用しており、1階は被相続人の子が店舗として使用していたようなケースでは、配偶者短期居住権によって保障されるのは2階部分での居住だけで、1階部分まで使用できるわけではありません。

行政書士 タカ行政書士 タカ

なぜこのような規定なのかといいますと、配偶者短期居住権とはあくまで配偶者が相続開始時に受けていた居住利益をその後も一定期間保護する趣旨であり、従前と同様の形態で居住できるにとどまるためです。

配偶者短期居住権の成立要件

配偶者短期居住権が成立するための要件ですが以下のとおりです。

被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合

重要な点として、被相続人の財産に属した建物なので、建物が賃借物件である場合は成立しないので注意してください。

これ以外に、被相続人の許諾が必要だとか、相続開始の直前まで被相続人と同居している必要があるとか、そういう要件はありません。

ですので、例えば被相続人が単身赴任で遠方に居たような場合でも、それ以外の要件を満たせば配偶者短期居住権は成立します。

配偶者短期居住権の存続期間

配偶者短期居住権とは、”短期”という言葉が含まれていることからもわかるとおり、ある一定期間のみ保護されるものです。

以下2つのケースでそれぞれ存続期間が規定されています。

  • 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合
  • 上記以外の場合

以下、それぞれ解説していきます。

居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合

「居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合」とは、遺言によって居住建物の帰属が決められておらず、相続人の全員で遺産分割協議を行う場合のことです。

このケースにおける配偶者短期居住権の存続期間は、下記2つの日におけるどちらか遅い日までとなります。

  • 遺産分割により居住建物の帰属が確定した日
  • 相続開始の日から6か月を経過する日

ちょっと難しいですが、簡単に言えば次のとおりです。

遺産分割で居住建物の帰属が決まる日まで、配偶者短期居住権によって配偶者はその建物で暮らすことができる。相続開始からすぐ(1か月後など)遺産分割を行ったような場合でも、相続開始から6か月が経過するまでは暮らしていてよい

行政書士 タカ行政書士 タカ

このように、もしも遺産分割が早期に成立してしまったような場合でも、配偶者が急いで退去しなくて良いようにしてあるのです。

上記以外の場合

「居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合」以外の場合ということですが、例えば遺言により配偶者以外の相続人に居住建物を相続させるとされている場合や、第三者に遺贈するとされているような場合を指しています。

相続、遺贈等によって居住建物の所有権を取得した者は、いつでも配偶者短期居住権の消滅を申し入れることが可能です。

そしてこの申し入れがあった日から6か月が経過すると配偶者短期居住権が消滅するので、その日までが配偶者短期居住権の存続期間ということになります。

配偶者短期居住権で認めるのは「使用権限」のみ

配偶者短期居住権で認められているのは居住建物の「使用権限」のみであり、「収益権限」については認められていません。

つまり、配偶者は居住建物に居住することはできますが、第三者に建物を貸して収益を上げることはできません。

居住建物取得者による居住建物の譲渡の禁止

相続や遺贈によって居住建物の所有権を取得した者は、第三者に対して居住建物を譲渡したり、その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げることはできないこととされています。

居住建物取得者がこれに反して第三者に居住建物を譲渡等した場合には、配偶者は居住建物取得者に対して、債務不履行に基づく損害賠償を請求することができます。

配偶者短期居住権の条文「第1037条」の規定

ここまで解説してきました配偶者短期居住権について、その根拠となる民法条文を以下に引用します。

(配偶者短期居住権)
第千三十七条 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。
一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日
二 前号に掲げる場合以外の場合 第三項の申入れの日から六箇月を経過する日
2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
3 居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。

(出典:e-gov-民法)

配偶者短期居住権の施行日はいつから?

配偶者短期居住権の施行日ですが、2020年(令和2年)4月1日となります。

施行日以降に開始した相続において配偶者短期居住権は適用されます。施行日より前に開始した相続については適用されませんので注意してください。

まとめ

配偶者短期居住権について一通り解説をしてきました。住み慣れた居住建物について、被相続人が遺言で第三者に遺贈したり、配偶者以外の相続人(子など)に相続させた場合には、配偶者はすぐさま建物から出ていかなくてはなりませんでした。配偶者短期居住権の制度により、配偶者の保護が図られたことで、配偶者は安心して今後の生活を考えられるようになりました。

配偶者が守るべき規定(ルール)と権利の消滅

配偶者短期居住権を有する配偶者が居住建物を使用する上で必ず守るべき規定(ルール)を解説します。違反があると権利が消滅することもあるため注意が必要です。

配偶者短期居住権の決まり:善管注意義務と取得者承諾+消滅請求を解説

配偶者短期居住権の消滅と居住建物の返還

配偶者短期居住権が期間満了などの理由で消滅した場合、配偶者は建物を所有者に返還しなければなりません。その際、建物に付属させた物の収去義務や損傷の原状回復義務があります。

配偶者短期居住権の消滅と居住建物の返還【収去義務と原状回復義務】