被相続人名義の建物に暮らしていた配偶者が、相続開始後も引き続き暮らせるようにするための方策が配偶者短期居住権の制度です。

ですが、何らかの理由で配偶者短期居住権が消滅した場合には、配偶者は居住建物を所有者に返還しなければなりません。

この記事では、居住建物の返還の際に知っておく必要がある事項を解説していきます。

この記事でわかること
  • 配偶者短期居住権が消滅する原因
  • 権利消滅後も居住できるケース(共有持分あり
  • 居住建物返還における収去義務原状回復義務
配偶者短期居住権とは?施行日はいつ?

配偶者短期居住権とは何か、制度の内容、権利の存続期間、施行日については下記記事にてくわしく解説しています。ぜひお読みください。

配偶者短期居住権とは?制度の内容・成立要件・存続期間・施行日を解説

配偶者短期居住権の消滅による居住建物の返還

配偶者短期居住権が消滅した場合には、居住建物を本来の帰属先(所有者)に返還します。

ここでは配偶者短期居住権が消滅する原因と、消滅後の返還について解説します。

配偶者短期居住権が消滅する原因

配偶者短期居住権が一般に消滅する原因は主に以下の通りです。

  • 配偶者が居住建物使用上の義務に違反し、居住建物取得者から配偶者短期居住権の消滅請求があった
  • 配偶者短期居住権の存続期間が経過した
  • 配偶者短期居住権を有する配偶者が配偶者居住権を取得した

上から3つ目の配偶者居住権とは、配偶者短期居住権の権利内容をさらに手厚くした制度です。

配偶者居住権の取得による原因以外で配偶者短期居住権が消滅した場合、配偶者は居住建物を居住建物取得者(建物の所有権を有する者)に返還しなければなりません。

配偶者短期居住権の義務規定と消滅請求について

配偶者短期居住権により居住建物を使用できる配偶者にとって、守らなければならない義務があります。義務違反があった場合、本来の所有者から配偶者短期居住権の消滅請求が可能となります。詳しくは以下の記事をご覧ください。

配偶者短期居住権の決まり:善管注意義務と取得者承諾+消滅請求を解説

配偶者が居住建物につき共有持分を有する場合

遺言や遺産分割により、居住建物を複数の相続人で相続するような場合には、その相続人全員で居住建物を共有している状態となります。

居住建物を共有している(共有持分を有する)共有者は、それぞれ居住建物の全部について持分に応じて使用することが可能です。(以下、民法249条)

(共有物の使用)
第二百四十九条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。

(出典:e-gov-民法)

ここで、配偶者短期居住権を有する配偶者が、居住建物の共有持分も有していたとします。この場合、配偶者は自己の共有持分に応じて、居住建物の全部を使用することができるわけですね。(上記民法249条から)

そのため、例え過半数を超える共有持分を有する者であっても、配偶者短期居住権が消滅したからといって、それを理由に配偶者に居住建物の返還を求めることはできないとされています。

配偶者短期居住権が消滅しても、今度は配偶者の有する共有持分に応じて建物全体を使用できるからです。

居住建物返還に伴う収去義務・原状回復義務

配偶者短期居住権を有する配偶者が、相続開始後に居住建物に付属させた物がある場合には、配偶者短期居住権の消滅によって建物を返還する際には、付属させた物を収去する義務を負います。

ですが、付属させたはいいものの、居住建物から分離させることができない物や、分離するのに過分の費用を要する物については、収去しなくても構いません。

また、配偶者短期居住権の消滅により建物を返還する場合には、配偶者は原状回復義務を負います。つまり、居住建物を使用する中で生じた損傷があれば、それを修繕して返還するということです。

ただし、通常の使用から生じる損耗や経年変化による損耗はあえて修繕する必要はありません。さらに、損傷が配偶者の過失によるものでない場合も修繕の必要はありません。

行政書士 タカ行政書士 タカ

なお、配偶者が亡くなり、配偶者短期居住権が終了した場合には、配偶者の相続人が配偶者の義務(原状回復義務等)を相続することになります。

配偶者短期居住権の消滅による居住建物返還に関する規定「民法1040条」

配偶者短期居住権が消滅した場合には居住建物を返還する必要があり、その際に知っておくべき事項を解説してきました。以下、その根拠となる条文を引用します。

(居住建物の返還等)
第千四十条 配偶者は、前条に規定する場合を除き、配偶者短期居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
2 第五百九十九条第一項及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

(借主による収去等)
第五百九十九条 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
2 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。

(賃借人の原状回復義務)
第六百二十一条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

(出典:e-gov-民法)

上記の民法1040条において、「前条に規定する場合」というのは民法1039条のことで、その内容は「配偶者居住権を取得したことによる配偶者短期居住権の消滅」についてです。

まとめ

配偶者短期居住権は期間限定の居住権なので、期間満了によって居住建物を所有者に返還しなければなりません。そのため、アパートを賃借するのと同様に、居住建物が損傷しないよう注意して使用する必要があるのです。もし配偶者の過失により建物が損傷してしまった場合には、これを修繕して返還する必要があります。