被相続人の相続開始後も、遺産に含まれる居住建物に配偶者が安心して暮らせるよう保護する制度が配偶者居住権です。
この配偶者居住権は家庭裁判所の審判によって取得することもできます。具体的に解説していきます。
- 家庭裁判所での審判によって配偶者居住権を取得できる場合
- 配偶者居住権の取得が認められない場合
配偶者居住権の仕組み、成立要件、施行日について
配偶者に居住建物の無償使用を認める配偶者居住権の仕組みや成立要件、施行日についてわかりやすく解説しています。
配偶者居住権とは?制度の内容・成立要件・施行日をわかりやすく解説!
家庭裁判所の審判による配偶者居住権の取得について
相続人間で合意ができている場合
家庭裁判所における遺産分割審判の中で、配偶者が配偶者居住権を取得するということに相続人の全員で合意できているならば、家庭裁判所は配偶者居住権を取得させる審判をすることができます。
相続人間で合意ができていない場合
配偶者居住権を配偶者に取得させることに相続人間で合意ができていない場合です。居住建物の所有権を取得した相続人(居住建物取得者)が反対しているようなケースです。
配偶者居住権の取得を配偶者に認めてあげた場合、その配偶者は建物全部を無償で使用できることになります。そのため、建物本来の所有者は自由に建物を使用できなくなるわけですね。
このようなケースでは、家庭裁判所は配偶者からの「配偶者居住権を取得したい旨」の申し出を受けた場合、配偶者居住権を取得させる審判をすることができます。
ただし、居住建物の所有者が受ける不利益の程度を考慮した上で、それでもなお配偶者の生活維持のために特に必要だと判断した場合に限ります。
相続人間での合意がなく、居住権取得に合理的理由もない場合
ここまで解説した内容をまとめますと、遺産分割審判の場において、次の場合には配偶者は配偶者居住権を取得することができません。
- 配偶者居住権の取得について相続人間で合意がない
- 配偶者からの申し出があった場合でも、建物所有者に不利益を与えてまで配偶者に権利を認める合理的理由がない
このとおり、どんな場合でも必ず配偶者居住権が認められるわけではないのです。
配偶者居住権は居住建物全部の無償使用を配偶者に許す制度です。そのため、共同相続人の中にはそれに納得できない方も出てくる可能性があります。このまま遺産分割になれば、配偶者居住権が認められる可能性は低くなるでしょう。
そのため、確実に配偶者居住権を取得するためには、やはり被相続人に遺言で遺贈していただくのが最も確実で安全な方法と言えます。
家庭裁判所審判による配偶者居住権の取得「民法1029条」
ここまでご説明してきた、家庭裁判所での配偶者居住権の審判について規定する民法条文を以下に引用します。
(審判による配偶者居住権の取得)
第千二十九条 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。(出典:e-gov-民法)
まとめ
以上、家庭裁判所における配偶者居住権の審判についてでした。家庭裁判所で配偶者居住権を取得したい旨を申し出ても、必ず認められるわけではありません。注意してくださいね。