相続人ではなくても、特別縁故者として、被相続人(亡くなられた方)の相続財産について、財産分与を請求できる制度があります。
ここでは、特別縁故者に該当する者、特別縁故者として財産分与請求をする手続きについて、ご説明していきます。
特別縁故者に該当する人とは?
特別縁故者とは、以下に示す者が該当します。
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
たとえば、「内縁の妻」は「被相続人と生計を同じくしていた者」に含まれます。
内縁の夫婦では、お互いがお互いを相続できません。法律上の夫婦ではないためです。
そのため、内縁の妻が、内縁の夫の相続財産を得るためには、夫に遺言で遺贈をしてもらうか、この特別縁故者の財産分与請求を行う他に方法はありません。
相続財産分与の請求を行う条件
上記のとおり、内縁の妻などは特別縁故者として、被相続人の相続財産の分与請求ができるわけですが、どんな場合にも請求できるわけではありません。
具体的には、次の条件を満たす必要があります。
- 被相続人に相続人が一人も存在しない
つまり、被相続人の財産を相続する人(相続人)が誰もいなかった場合に、初めて特別縁故者として、財産分与請求が行えるのです。
被相続人に配偶者や子などの相続人がいれば、その者がすべての財産を相続するので、内縁の妻は財産分与請求をすることができません。
ですので、財産分与の請求をする前に、まずは被相続人に相続人が一人もいないことを確認しなければなりません。
特別縁故者として相続財産分与を受けるまでの手順
上でご説明しましたとおり、特別縁故者として財産分与の請求をするためには、被相続人に相続人が1人もいないことが大前提となっています。
そのために、特別縁故者は、『被相続人に相続人が一人もいない事実を証明』する必要があります。
次の手順で手続きを行い、確認していきます。
それぞれについて、以降で具体的にご説明していきます。
「債権者」とは、たとえば被相続人が生前に借金をしていた場合における、貸し主のことです。
「受遺者」とは、遺言によって財産を無償で譲る(これを遺贈という)場合の、受取人のことです。
① 相続財産管理人の選任申立て
被相続人の死後、相続人の存在が明らかでない場合には、相続財産を管理する人がいないことになります。
配偶者や子などの相続人が存在していれば、その者が相続財産を管理しつつ、債権者や受遺者に支払うこともできますね。
つまり、特別縁故者として財産分与の請求をしようにも、財産を管理する人がいないと困ってしまいます。
そこで、まずは『相続財産管理人の選任』を家庭裁判所に申し立てる必要があるのです。
以下に必要な手続きを記載します。(家庭裁判所HPを参照)
申立人 |
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申立先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 (管轄裁判所を調べたい方はこちら) |
必要な費用 |
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必要書類 |
※戸籍に関する書類は多岐にわたります。詳細は裁判所HPをご覧ください。 ※審理のために必要な場合は,追加書類の提出をお願いすることがあります。 |
提出書類の書式、記載例は裁判所HPにて閲覧、ダウンロード可能です。
申立書の記載例
以下に、相続財産管理人選任の申立書の記載例を示します。
記載例は裁判所HPでもご確認いただけます。参考にしてみてください。
相続財産管理人が選任される
相続財産管理人に選任されるために、特別な資格は必要ありません。
ただし、被相続人との関係や利害関係の有無などを考慮して、相続財産を管理するのに最も適任と認められる人が選ばれます。
弁護士や司法書士といった法律家が選任されることもあります。
また、相続財産管理人の候補者を指定して申し立てすることもできます。
なお、相続財産管理人が選任されると、官報で公告されます。
具体的には、次のような内容が官報に掲載されます。
② 債権者・受遺者を確認する公告
相続財産管理人が選任されると、家庭裁判所はその旨の公告を行います。
この公告から2ヶ月経っても相続人の存在が明らかにならないときは、相続財産管理人は、『相続財産の債権者・受遺者を確認するための公告』を行います。
この債権者と受遺者を確認する公告は、2ヶ月以上の期間を定めて行われます。
債権者や受遺者の存在が明らかになれば、必要に応じて、相続財産管理人は相続財産の中から支払いを行っていきます。
③ 相続人捜索の公告
債権者と受遺者を確認する公告の期間満了後、まだ相続人の存在が明らかでない場合には、相続財産管理人の申立てにより、家庭裁判所は6ヶ月以上の期間を定めて、相続人捜索の公告を行います。
これが相続人を捜索する上での、最終通告となります。
この期間内に、「私は被相続人の相続人です。」という申し出がなければ、相続人不存在が確定することになります。
同様に、期間内に名乗り出なかった債権者や受遺者についても、不存在が確定します。
相続人捜索の公告の掲載例を示します。
このようにして、相続人の不存在が確定すれば、あとは特別縁故者として相続財産分与の請求手続きを行います。
④ 相続財産分与の申立て
特別縁故者の財産分与の申し立ては家庭裁判所に行います。
手続きは下記の通りです。
申立人 |
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申立期間 | 相続人を捜索するための公告で定められた期間の満了後3ヶ月以内 |
申立先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 (管轄裁判所を調べたい方はこちら) |
必要な費用 |
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必要書類 |
※審理のために必要な場合は,追加書類の提出をお願いすることがあります。 |
提出書類の書式、記載例は裁判所HPにて閲覧、ダウンロード可能です。
この請求により、相続財産分与の審判が行われます。
審判の結果、特別縁故者への財産分与がされる、されないが決定します。
注意すべきは、財産分与請求には期間制限があることです。
家庭裁判所の「相続人捜索の公告」の期間満了後、3ヶ月以内に請求する必要があります。ご注意ください。
申立書の記載例
以下に、特別縁故者の相続財産分与請求の申立書の記載例を示します。
記載例は裁判所HPでもご確認いただけます。参考にしてみてください。
まとめ
特別縁故者として、被相続人の相続財産の分与請求を行う手続きについてご説明しました。
その条件とは、被相続人に相続人が1人も存在しないことでした。
したがいまして、どんなに被相続人の療養介護に努めたとしても、相続人が1人でも存在した場合は特別縁故者として財産分与の請求はできません。