遺言書を書き始めた人『遺言書を書いています。「相続させる旨の遺言」と「遺贈」は何が違うのでしょうか?
不動産登記手続きに影響すると聞いたのですが、本当でしょうか?』

このような疑問にお答えします。

この記事でわかること
  • 「遺贈」と「相続させる旨の遺言」の法的性質、違いについて
  • 不動産を相続した場合の登記申請・対抗要件との関係について
  • 相続させる遺言と遺産分割協議の必要性について

相続させる旨の遺言と法的性質

相続させる旨の遺言とは、遺言書を書いていく中で、相続人に対して、「〇〇を相続させる。」というように特定の財産を相続させる遺言をいいます。例えば、以下のような遺言です。

不動産Aを妻・鈴木花子に相続させる。

遺言書では、上記のように相続人に対して特定の財産を相続させる旨を記載することができます。

相続人の相続分(遺産の取り分)については、民法で規定されていて、これを法定相続分といいます。

ですが、遺言書に相続させる旨の遺言を書くことで、法定相続分とは異なる指定をすることが可能です。法定相続分より多めに相続させたり、少なめに相続させたりできます。

遺言書がなかった場合には、原則どおり民法の法定相続分に従うことになります。

誰が相続人となるか(法定相続人)と、法定相続分、相続順位については「【イラスト解説】法定相続人の範囲と順位、相続分(割合)をわかりやすく!」で解説しています。

相続させる旨の遺言は相続人以外にできません

大切なことですが、相続人ではない他人に対して、相続させる旨の遺言を書くことはできません。財産の受取人が遺言者の相続人であるからこそ、”相続させる”という言葉になるのです。

つまり、次のような遺言は書かないように注意しましょう。

現金100万円を、遺言者の友人である山田五郎氏に相続させる

このことから、遺言者は自分が亡くなった場合に、誰が相続人となるのかを事前に理解している必要があります。

相続人には第1順位から第3順位まで規定されており、先順位の相続人がいる場合には、後順位の者は相続人とはなりません。

おすすめ 【イラスト解説】法定相続人の範囲と順位、相続分(割合)をわかりやすく!

遺贈とは?【特定遺贈と包括遺贈】

遺言により財産を与える方法として、遺贈という制度があります。具体的には、次のように記載します。

鈴木太郎氏に現金100万円を遺贈する。

遺贈とは、遺言により財産を無償で譲る行為をいいます。遺贈を受ける相手のことを受遺者といいます。

遺贈は相手が相続人でも、相続人でない他人でも行うことができます。

特定遺贈と包括遺贈

遺贈には特定遺贈と包括遺贈があります。両者の違いは概ね次のようになります。

  • 特定遺贈

遺言者が自己の特定の財産を指定して、遺贈を行う場合

  • 包括遺贈

遺言者が自己の財産を指定せず、財産の割合で遺贈を行う場合

 

つまり、「不動産Aを遺贈する」のように特定の財産を指定する場合には、特定遺贈となります。

「全財産を遺贈する」や「財産の1/3を遺贈する」などの場合は包括遺贈となります。

「遺贈」と「相続させる」の違い

それでは、「遺贈」と「相続させる」の違いについてです。

ここまで解説してきた内容をまとめると、次のようになります。

 

<遺贈>

  • 遺贈の相手は相続人でも相続人以外でも構わない

<相続させる>

  • 相続させる相手は相続人のみである

このような違いを見ると、それならすべて「遺贈」で良いのではないか?と思えてしまいます。

ですが、「遺贈」と「相続させる」では、その後の相続手続きにおいて大きな影響が生じてきます。

詳細は以降で解説しますが、次のようにすると良いです。

相続人に対しては「相続させる」を使用する。相続人以外に財産を与える場合は「遺贈」を使用する

遺贈と不動産登記との関係

遺言で不動産を遺贈された場合のケースについて考えます。この場合、取得した不動産の所有権移転登記を行う必要があります。

しがたって、受遺者は法務局に対して登記申請をすることになります。

ただし1点注意があります。

「遺贈」により不動産を取得した受遺者は、不動産の所有権移転登記の申請をするにあたり、他の相続人の全員と共同で登記申請をしなければなりません。

受遺者が単独で登記申請をすることはできないのです。

ですので、手続きでは受遺者のみならず、相続人全員分の実印と印鑑証明書が必要となります。

このため、登記申請に結構な手間がかかることが予想されます。一部の相続人が登記申請に協力的でないような場合は、さらに時間がかかってしまうでしょう。

相続させる旨の遺言と不動産登記との関係

次に「相続させる旨の遺言」によって不動産を取得したケースについて考えてみます。

この場合、登記申請は遺贈のケースとは異なり、次のようになります。

不動産を取得した相続人は単独で登記申請をすることができます。

登記申請に他の相続人は関与しないので、手続きがスムーズになります。

上記の理由から、相続人に対しては「遺贈する」ではなく「相続させる」遺言にするのが好ましいのです。

不動産所有権の対抗要件【遺贈、相続させる旨の遺言】

相続で不動産の所有権を取得した場合、その対抗要件を備えるためには、登記を行わなければなりません。

対抗要件を備えるとは、第三者に対して「この不動産は私のものです」という排他的な意思表示をすることです。

不動産の所有権を「遺贈」によって取得した場合と、「相続させる旨の遺言」により取得した場合とで、登記と対抗要件について次のような違いがあります。

  • 遺贈により取得した場合

登記がなければ、不動産の所有権を第三者に対抗(主張)できない

  • 相続させる旨の遺言で取得した場合

登記なくして、不動産の所有権を第三者に対抗(主張)できる

 

上記のとおり、不動産の所有権を遺贈により取得した受遺者は、登記を経なければ不動産の所有権を第三者に対抗することができません。

反対に「相続させる旨の遺言」により不動産の所有権を取得した相続人は、登記せずとも第三者に所有権を対抗できるのです。

⇒注意!改正あり。詳細は下記をご覧ください。

改正:相続させる旨の遺言と登記による対抗要件について

平成30年7月6日に、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立したことで、上記の内容が次のように改正されます。

  • 「相続させる旨の遺言」についても,法定相続分を超える部分については,登記等の対抗要件を具備しなければ,債務者・第三者に対抗することができない。

この改正法の施行日は、2019年7月1日となります。

つまり、相続させる旨の遺言によって不動産の所有権を譲り受けた場合でも、法定相続分を超える部分については登記をしないと第三者に対抗できないということです。

相続させる旨の遺言と遺産分割の関係

相続させる遺言があるケースで、遺産分割協議との関係はどうなるのかご説明します。

相続させる旨の遺言があれば、原則として遺産分割協議は不要です

遺言者が遺言により、すべての財産について相続させる旨の遺言を残していた場合、遺産分割は不要となります。理由は、遺言書の記載どおりに財産を分配すれば済むからです。

ただし次のような場合には、遺産分割協議が必要です。

  • このような遺言書が作成されなかった場合
  • 遺言書はあっても記載漏れの財産が見つかった場合
  • 相続分の割合でしか指定されていなかった場合

つまりは、相続させる旨の遺言により、「不動産は〇〇へ」「預貯金は〇〇へ」というように、すべての財産について詳細に書かれている場合には、改めて遺産分割をする必要がありません。

例外:相続させる旨の遺言があるが、遺産分割ができる場合

とはいえ、上記のように遺産分割方法を指定する遺言がある場合でも、相続人の全員が合意することで、遺言の指定とは異なる分割をすることも可能です。

ですが、相続人の1人でも合意しなかった場合には、遺言書の指定に従って分割することになります。

受遺者や遺言執行者がいる場合

遺言書があっても、相続人の全員で合意すれば、遺言の指定とは異なる分割ができるとお話ししました。

ですが、遺言で第三者に遺贈がされており、受遺者がいる場合や、遺言執行者が指定されている場合には、これらの者の合意もとるようにしましょう。不要なトラブルを回避するためです。

まとめ

「遺贈」と「相続させる旨の遺言」について、法的な性質や違い、不動産登記や対抗要件との関係を解説しました。

どちらも財産を与える上では共通ですが、その法的効果はまったく異なることにご注意ください。