生命保険の契約者兼被保険者『同時死亡の推定ってどんな制度ですか? 私と保険金の受取人に指定した妻が同時死亡したら、どうなりますか? 同時死亡の推定と相続の関係について教えてください。』 |
このような疑問にお答えします。
- 同時死亡の推定の意味
- 同時死亡の推定がおこる具体例(親子、夫婦で同時死亡)
- 同時死亡の推定と生命保険金の受取について
同時死亡の推定とは?
災害や事故、その他の原因により、複数の者が同時に亡くなり、死亡時間の先後がはっきりしない場合には、「同時死亡の推定」という推定がなされます。
お互いが相続関係にある親族で同時死亡の推定がなされた場合、次のように扱います。
たとえば、親子が飛行機事故でほぼ同時に亡くなり、どちらが先に亡くなったか判明しない場合には同時死亡の推定がされます。
結果、親は子を、子は親を相続しなくなるのです。
以下、民法32条の2に規定されています。
第三十二条の二 数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
(出典:e-gov-民法)
【具体例】同時死亡の推定が起こるケース
どのように亡くなった場合に同時死亡の推定がされるのか、具体例をもってご説明していきます。相続関係図をイラストで示したので、参考にしてみてくださいね。
具体例1:親子の同時死亡の推定と相続
親子が同時に亡くなり、同時死亡の推定がされている場合の相続関係について考えてみみます。以下のケースを想定します。
- 浜一郎さんと浜男さん親子は交通事故で亡くなった
- どちらが先に死亡したかは定かでない
- 浜一郎さんには配偶者の浜代さん、子の浜子さん、浜男さんがいる
- 浜男さんに配偶者はおらず2人の子がいる
上のケースをイラストで表したのが下図です。
このケースでは、親子である浜一郎さんと浜男さんとの間に同時死亡の推定がされます。その結果、浜一郎さんは浜男さんを、浜男さんは浜一郎さんを相続しなくなります。
つまり、浜一郎さんの相続人は配偶者の浜代さんと、子の浜子さん、代襲相続により孫の太郎くん、花子さんということになります。浜男さんの相続人は2人の子です。
なお、人が亡くなったときに誰が相続人となるか、相続分などについては「法定相続人の範囲と相続順位・相続分を解説【雛形を無料贈呈!】」で詳しく解説しています。
孫の代襲相続に注意してください
以降で詳しく解説しますが、上のケースでは、浜一郎さんの相続人は配偶者の浜代さんと子の浜子さんだけでなく、孫の2人も相続人となります。これを代襲相続といいます。
具体例2:夫婦の同時死亡の推定と相続
夫婦が同時に亡くなり、同時死亡の推定がされている場合の相続関係について考えてみます。以下のケースを想定します。
- 浜男さん、浜子さん夫婦は交通事故で亡くなった
- どちらが先に死亡したかは定かでない
- 夫婦に子はいない
- 浜男さんの両親は他界しており、弟が一人いる
- 浜子さんの両親は存命で、弟が一人いる
上記のケースをイラストで表したのが、下図です。
浜男さん、浜子さんは夫婦なので、どちらか一方が亡くなった場合、配偶者は相続人となります。ですが、今回は夫婦が同時に亡くなった場合です。
このケースでは、夫婦には同時死亡の推定がなされ、浜男さんは浜子さんを、浜子さんは浜男さんを相続しないという結果となります。
そのため、浜男さんの財産は浜男さんの弟が相続します。浜子さんの財産は浜子さんの父母が相続することになるのです。
相続が開始すると誰が相続人となるのか、相続順位、相続分については「法定相続人の範囲と相続順位・相続分を解説【雛形を無料贈呈!】」で解説しています。
具体例2で同時死亡の推定がされなかったケースを考えてみる
上の具体例2で、もしも夫婦が同時死亡でなかったらどうなったでしょうか。つまり、浜男さんと浜子さんがどちらが先に亡くなったのか判明しているケースを考えてみます。
① 浜男さん→浜子さんの順に亡くなった場合
相続関係は次のようになります。
- 浜男さんの相続により、浜男さんの財産の3/4を浜子さんが、1/4を浜男さんの弟が相続する
- 浜子さんの相続により、浜子さんの全財産を浜子さんの父母が相続する
② 浜子さん→浜男さんの順に亡くなった場合
相続関係は次のようになります。
- 浜子さんの相続により、浜子さんの財産の2/3を浜男さんが、1/3を浜子さんの父母が相続する
- 浜男さんの相続により、浜男さんの全財産を浜男さんの弟が相続する
夫婦のどちらが先に死亡したかで相続関係が大きく変わる
夫婦のどちらが先に亡くなったかで、上記のように相続関係が異なってきますね。最終的に相続人となる者にとっては、財産の相続できる割合も影響されます。
このように、どちらが先に死亡したかで争いとなる可能性があるので、死亡の先後がはっきりしない場合には、同時死亡の推定がなされ、お互いがお互いを相続しないこととしたのです。
異なる場所で死亡した場合も「同時死亡の推定」は起こります
同時死亡の推定ですが、これまで交通事故で同時に亡くなったようなケースを想定してきましたが、果たして別々の異なる場所で亡くなった場合にも適用されるのでしょうか。
結論から言うと、お互い相続関係にある者同士が異なる場所で亡くなった場合も、同時死亡の推定は起こります。
つまり一方は飛行機事故で、他方は病院のベッドの上で亡くなった場合なども該当します。
例えば、病院で亡くなった方の死亡年月日、時分まで判明しているが、飛行機事故でなくなった方の死期が不明である場合、どちらが先に亡くなったか結局わからないので、同時死亡の推定が起こります。
生命保険の受取人が同時死亡したとき
被保険者が亡くなった場合に、受取人に指定した者に生命保険金が支払われるような生命保険に加入している方は多いですよね。
一般的には、夫婦の一方が生命保険の契約者兼被保険者となり、他方が受取人というケースが見受けられます。
では、この夫と妻、つまり被保険者と受取人が同時に亡くなった場合、保険金は誰に支払われるのでしょうか。次のようになります。
最高裁判所第三小法廷平成21年6月2日では、生命保険の契約者兼被保険者と受取人が同時死亡の推定を受けた場合には、お互いがお互いを相続しないがゆえに、契約者兼被保険者の相続人が保険金受取人になることはないとしています。
その結果として、受取人として指定された者の相続人が保険金を受け取ることになるとしています。
同時死亡と保険金の受取り(受取人が複数の場合)
契約者兼被保険者と受取人が同時死亡となった場合、保険金は受取人に指定された者の相続人が受け取るということをお伝えしました。
それでは、この受取人の相続人が複数人いた場合には、どのような割合で保険金を受け取ることになるのでしょうか。判例は次のように言っています。
つまり、受取人となる相続人が複数いた場合には、各々が均等に保険金を受け取るべきであると判示しているわけですね。
下記は、その根拠となる判例の一部です。
指定受取人の法定相続人とその順次の法定相続人とが保険金受取人として確定した場合には、各保険金受取人の権利の割合は、民法四二七条の規定の適用により、平等の割合になるものと解すべきである。
(出典:最高裁判所第三小法廷平成5年9月7日判決)
ちなみに、民法四二七条とは下記です。
(分割債権及び分割債務)
第四百二十七条 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。(出典:e-gov-民法)
親子の同時死亡で代襲相続が起こります
代襲相続とは、被相続人の相続において、相続人となるはずの子も既に亡くなっていた場合、その子の子(被相続人から見た孫)が親の代わりに相続人となるものです。
例えばですが、親(A)と子(B)が同時死亡し、Bに子(C)がいたケースで、C(Aから見た孫)はAを代襲相続できるのか、ということが問題となります。
結論として、孫Cは親Aを代襲相続することができます。
同時死亡の推定の具体例でもご紹介しましたが、親子が同時死亡の推定を受けた場合、親は子を、子は親を相続しなくなります。
ですが、孫は代襲相続できるのです。代襲相続が起こるパターンを以下に示します。
- 被相続人の相続開始以前に相続人が死亡(同時死亡も含む)
- 相続欠格
- 相続廃除
(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。(出典:e-gov-民法)
代襲相続について詳しく知りたい方
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まとめ
同時死亡の推定と、生命保険金の受取についてご説明してきました。災害や事故などで不幸にも親子、または夫婦などがほぼ同時に亡くなることは起こり得ます。その場合の相続関係についてでした。