遺言書を書く人『遺言執行者とは何ですか?どのように指定したらいいですか? あと遺言執行者の権限・義務や職務内容、報酬の決定方法などをくわしく教えてください。』 |
このような疑問にお答えします。
記事のテーマ
- 遺言執行者とは?選任するメリットについて
- 遺言執行者の権限、義務、職務内容
- 遺言執行者の選任方法(遺言、家庭裁判所申立て)
- 遺言執行者と登記、銀行預金解約について
主に上記の内容を解説していきます。
遺言執行者とは
遺言執行者は、相続財産の管理のほか、遺言執行に必要なすべての権利と義務を持ちます。
遺言者(遺言書を書いた人)は遺言で遺言執行者を指定することができますし、同じく遺言で第三者に遺言執行者の指定を委託することができます。
民法1006条に規定されています。
(遺言執行者の指定)
第1006条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。(出典:e-gov-民法)
遺言執行者を選任するメリット
遺言執行者を指定することのメリットについて解説していきます。次のようなメリットがあります。
- 遺言執行者を選任することで、遺言執行(遺言内容の実現)が円滑に進むようになる
遺言執行者が選任された場合、相続人は遺産を自由に処分することができなくなります。そして、遺言の執行を妨げる行為もできません。
そのため、相続人による財産の処分、持ち逃げなどは禁止されます。
このため、円滑に相続手続きを行うことが可能となります。
民法に次のように規定されています。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。(出典:e-gov-民法)
さらに、司法書士や行政書士など法律の専門家が遺言執行者に選任されることで、相続人同士の争いを回避し、公正かつ忠実に遺言の執行を行うことが可能となります。
遺言執行者の役割(職務)について
遺言執行者はどんな仕事をするのでしょうか。解説していきます。
民法に次のような規定があります。
(遺言執行者の任務の開始)
第1007条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。(相続財産の目録の作成)
第1011条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。(遺言執行者の権利義務)
第1012条1項 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。(出典:e-gov-民法)
上記のとおり、遺言執行者は財産目録の作成を含む、遺言の執行に必要な一切の行為をすることができますが、具体的には次のような行為を任せることができます。
- 財産目録の作成
相続財産の目録を作成し、相続人に交付します。
- 相続人への財産の分配
遺言書と財産目録をもとに、相続人へ財産の分配を行います。
- 遺贈に対する財産の引渡し
遺言で遺贈を受けた受遺者に対して、財産の引渡しを行います。
- 財産の管理
相続財産の価値が損なわれないよう、適切に管理します。
遺言執行者が作成する遺産目録(財産目録)の書き方
遺産目録(財産目録)とは、被相続人の相続財産についての目録です。
つまり、どんな種類の財産がいくらあるのかを一覧化するのです。そのためには財産調査をしなければなりません。
財産調査は慣れないうちは時間がかかってしまうものです。場合によっては、役所への書類の請求が必要となることもあります。
財産目録の書き方、サンプルは「財産目録の書き方、記載例を紹介【無料:すぐ使える書式(雛形)付き】」にて解説しています。
要チェック! 相続、遺言の基礎知識まとめ(カテゴリーごとに解説します)
相続、遺言について深く学ばれたい方はぜひご確認ください。
遺言執行者の権限・義務・責任について
遺言執行者の権利(権限)、義務、責任について解説していきます。義務、責任については、最悪の場合は損害賠償に発展することもあるので、注意してください。
遺言執行者の権利(権限)について
遺言執行者には、次の権利(権限)が認められています。
- 費用償還請求権
- 報酬請求権
費用償還請求権 |
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報酬請求権 |
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上記の権限を規定した条文を以下に示します。下記の民法650条は、もともと委任契約に関する規定ですが、遺言執行者にも適用されます。
(受任者による費用等の償還請求等)
第六百五十条 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。(遺言執行者の報酬)
第千十八条 家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
(出典:e-gov-民法)
遺言執行者の義務
遺言執行者の義務については、以下のように規定されています。
(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 第六百四十四条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。(出典:e-gov-民法)
第六百四十四条から第六百四十七条という部分が、具体的な遺言執行者の義務を表します。
具体的には次の義務となります。
- 遺言執行者は善良な管理者の注意をもち、遺言執行を行うこと(善管注意義務)
- 相続人から請求があれば、いつでも遺言執行の処理状況を報告し、執行が終了した場合は遅滞なくその経過と結果を報告すること(報告義務)
- 遺言執行にあたり受領した金銭やその他の物を相続人に引き渡すこと
- 相続人に引き渡すべき金銭またはその利益のために用いるべき金銭を自己のために消費したときは、その消費した日以降の利息を支払うこと。さらに損害がある場合は、相続人に対して損害賠償責任を負う
本来この規定は委任契約における受任者の義務を規定しているものなのですが、遺言執行者の義務にも適用されます。以下に対応する民法の条文を示します。
(受任者の注意義務)
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。(受任者による報告)
第六百四十五条 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。(受任者による受取物の引渡し等)
第六百四十六条 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。(受任者の金銭の消費についての責任)
第六百四十七条 受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。(出典:e-gov-民法)
上記規定の、「受任者」という言葉を「遺言執行者」に置き換えてお読みください。
上記に加え、次のような義務があります。
- 就職を承諾したときは、直ちに任務を行わなければならない
- 遅滞なく相続財産の目録を作成し、相続人に交付しなければならない
(遺言執行者の任務の開始)
第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。(相続財産の目録の作成)
第千十一条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。(出典:e-gov-民法)
遺言執行者の責任(債務不履行責任)
遺言執行者の義務である善管注意義務や報告義務を怠った場合、相続人に対して債務不履行責任を負うこともあります。
善管注意義務とは、遺言執行者として通常要求される注意を払って、執行業務を行うための義務です。もっと簡単にいえば、依頼人のためにしっかりと注意して仕事をしてください、というイメージです。
債務不履行責任とはこの場合、損害賠償責任や遺言執行者の解任ということになります。
遺言執行者の相続人への通知義務と違反について
遺言執行者に就任した場合、これを相続人やその他の利害関係者に通知する義務はあるのかが問題となります。
結論から言うと、遺言執行者就任の通知義務はありません。通知義務がない以上、違反ということもありません。
とはいえ、遺言執行者に就任した場合には、相続人その他の利害関係人に通知することをお勧めします。通知することで、以下のようなメリットがあるからです。
- 相続人による相続財産の処分等を防止できる
- 金融機関へ通知することで、遺言者名義の口座を凍結できる
遺言執行の実務を円滑に行うためにも、遺言執行者に就任した旨は通知するべきであると考えます。
なお、もしも遺言執行者に就任した旨を通知しなかったことで、結果的に相続人が何かしらの損害を被った場合、遺言執行者は相続人に対して損害賠償責任を負う可能性もあります。
遺言執行者が必要な場合【2つのケース】
遺言執行者を必ず選任しなければならないケースが存在します。
遺言で以下の行為を行う場合が該当します。
- 子の認知
- 推定相続人の廃除および廃除の取り消し
遺言者が遺言により上記の行為をする場合には、必ず遺言執行者を選任しなければなりません。理由は、被相続人の死後に、遺言執行者が上記行為の手続きを行うためです。
遺言書に書いただけで実際に手続きを行ってくれる人がいないと困りますよね。
遺言執行者を指定する方法は3つある
遺言執行者の選任方法は次の3つです。
- 遺言書で指名する
- 第三者に決めてもらうよう遺言書で委託する
- 家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう
遺言で指定する場合には、事前にその人の承諾を得ると良いでしょう。
また、遺言で指定した人が遺言執行者になれなかったり、断られたりする場合もあるので、第三者に指定を任せる(委託する)、ということも可能です。
遺言で、遺言執行者が指定されていなかった場合や、指定された人が断った場合、亡くなった場合などには、利害関係人の請求によって、家庭裁判所が遺言執行者を選任することも可能です。(民法1010条)
(遺言執行者の選任)
第1010条 遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。(出典:e-gov-民法)
遺言執行者の指定を遺言書で行う!文例・書き方
遺言執行者を遺言書により指定する場合の文例、書き方についてご紹介しておきます。
「【遺言書の文例集】ご遺族で争わず、無効にしない書き方・表現リスト」にて詳しく解説しています。
遺言執行者に特別な資格は不要です
遺言執行者の指定方法をご紹介しましたが、ここで1つ問題があります。
それは、遺言執行者となるために特別な資格は必要なのか、ということです。
遺言内容の執行として相続手続きを相続人に代わり務めていくことになるので、法律の知識も必要ですし、何より信頼できる人でなければなりません。
責任の重さから考えて、何か特別な資格が必要なのかと思う方も多いのではないでしょうか。
結論としては、遺言執行者に特別な資格は必要ありません。
遺言者の配偶者や長男、親族、信頼できる知人、法律の専門家など誰でもなることが可能です。ただ、一般的には遺言者の家族が指名されることが多いようです。
遺言執行者として弁護士や税理士、行政書士を指名することも可能ですが、その場合には士業に対する報酬が発生するので、よく考えてから相談してみましょう。
遺言執行者の欠格事由(なれない人)
遺言執行者になることができない人が法律で定められています。次の者が該当します。
- 未成年者
- 破産者
遺言執行には大きな責任が伴うので、これらの者には任せることができないのです。
(遺言執行者の欠格事由)
第1009条 未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。(出典:e-gov-民法)
どんな人に任せるべき?
どんな人に遺言執行者を任せるのが良いのでしょうか。未成年者および破産者以外なら良いわけですが、適当に決めてしまっては、後々トラブルになるおそれもあります。
できれば、弁護士や司法書士、行政書士といった専門家に依頼した方が無難かもしれません。
既にお話したとおり、相続の手続きは複雑であり、トラブルが起こりやすいためです。専門家に依頼すれば、円滑に進めることが期待できるでしょう。
遺言執行者の選任申立【家庭裁判所にて】
遺言執行者の選任を家庭裁判所に申立てる場合の手続きについて、以下に示します。
申立人 | 利害関係人(相続人,遺言者の債権者,遺贈を受けた者など) |
申立先 | 遺言者の最後の住所地の家庭裁判所 管轄裁判所を調べたい方はこちら |
申立てに必要な費用 | ・執行の対象となる遺言書1通につき収入印紙800円分 ・連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ確認してください。) |
申立てに必要な書類 | ・申立書 ・遺言者の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本(全部事項証明書) ・遺言執行者候補者の住民票又は戸籍附票 ・遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し ・利害関係を証する資料(親族の場合,戸籍謄本(全部事項証明書)等)※もし、申立前に入手が不可能な戸籍等がある場合は、その戸籍等は申立後に追加提出することでも差し支えありません。※ 審理のために必要な場合は、追加書類の提出をお願いすることがあります。 |
遺言執行者の選任申立てについては裁判所HPにてご覧いただけます。
続いて、申立書の記載例を下に示します。申立てされる際に参考にしてください。
遺言執行者に指名された!就任拒否はできる?
遺言執行者に指名されたからといって、必ず就任しなければならないわけではありません。当然都合が悪い場合には就任拒否をすることも可能です。
ということは、遺言者は遺言書で遺言執行者の指定をする場合、万が一にも就任を拒否される可能性を考慮しなければなりません。
予備的遺言といって、もしも指定した遺言執行者が就任を拒否した場合、別の者を指定しておくこともできます。
もしくは、生前に遺言執行者に指名する方の承諾をとっておくことも大切でしょう。
おすすめ【知らないと損する】予備的遺言とは?必要なケースと文例を紹介します遺言執行者を解任したい
遺言執行者が職務怠慢である場合など、遺言執行者としてふさわしくないと思われる場合には、遺言執行者の解任を家庭裁判所に請求することができます。
たとえば、次のような場合です。
- 特に理由もなく財産目録の作成、配布を怠っている
- 相続財産の管理義務を怠っている
- 相続財産を不当に管理し、消費していた
遺言執行者は被相続人の財産を管理したり、財産目録を作成したり、相続人に財産を分配したりと、その責任は非常に重いものとなります。そのため、最初から信頼できる方に任せることが重要となります。
遺言執行者の報酬はどうやって決める?
遺言書に報酬の記載があればそれに従いますが、もし記載が無ければ、遺言執行者が家庭裁判所に申し立てて報酬額を決めてもらうことができます。
家庭裁判所は相続財産の状況やその他の事情を考慮して、遺言執行者の報酬を決定することができます。(以下、民法1018条)
(遺言執行者の報酬)
第1018条 家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
遺言執行者がいる場合の登記申請について
相続財産の中には一般的には不動産がありますよね。不動産を相続した相続人は所有権移転の登記を行う必要があります。
それでは、遺言執行者が選任されている場合、この登記手続きは誰が行うのでしょうか。
次の2つのパターンで結論が異なります。
- 不動産を「相続させる」遺言の場合
遺言書に、「甲不動産をAに相続させる。」と書かれている場合
⇒遺言執行者に登記申請の権利はない
- 不動産を「遺贈する」遺言の場合
遺言書に、「甲不動産をCに遺贈する。」と書かれている場合
⇒遺言執行者に登記申請の権利がある(受遺者との共同申請)
相続させる遺言の場合には、相続人は相続開始により直ちに不動産を承継するとされています。このため、相続人は単独で登記申請ができるのです。
このため、遺言執行者に登記申請を行う権利も義務もありません。
しかし、登記の原因が遺贈による場合は遺言執行者は登記義務者となるのです。そのため、登記は受遺者(遺贈を受けた人)と遺言執行者の共同申請となります。
相続による不動産登記申請の方法、必要書類、登録免許税の計算などくわしく解説しています。
【初心者でも大丈夫!】相続した不動産の登記手続きを自分でやる!
遺言執行者がいる場合の銀行預金の解約手続きについて
相続における銀行預金の払戻しや口座の名義変更、解約などには、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要となります。
ただ、遺言執行者が選任されている場合には、遺言執行者が単独でこれらの手続きを行うことができるのかが問題となります。
銀行としては払戻しに応じるにあたり、できれば相続人全員の同意がほしいのです。理由は、あとあとトラブルに巻き込まれないようにするためです。
そこで、遺言書には次のような文言を入れておくことをお勧めします。
このように遺言書に遺言執行者の権限を明記しておけば、銀行もたいていは払戻しに応じてくれます。
金融機関における相続手続き、相続届、必要書類についてくわしく解説しています。
まとめ
遺言執行者とは何か、その権限、義務、職務内容をはじめ、選任方法などについて解説してきました。ちょっと長くなってしまいましたが、とても大切なのでぜひゆっくりと読んでみてくださいね。
繰り返しますが、遺言執行者がいるといないとでは、相続手続きの円滑さに大きな違いがあります。できれば遺言執行者を選任するようにしましょう。
要チェック! 相続、遺言の基礎知識まとめ(カテゴリーごとに解説します)
相続、遺言について深く学ばれたい方はぜひご確認ください。