相続人が遺言により、不動産を相続したとします。遺言では、遺言執行者も指定されていました。

このとき、遺言執行者は不動産を相続した相続人のために、相続登記を単独で申請できるのか、解説していきます。

遺言執行者は相続登記を単独で行える(民法1014条2項)

不動産を相続した場合、相続人は不動産の登記を行わなくてはなりません。登記をしなくては、相続した不動産の所有権を、第三者に対抗することができません(民法177条)。

そして遺言執行者は、この相続登記を相続人に代わって単独で行う権限を持ちます。

これは、改正された民法第1014条2項(下記)に規定されています。

民法第1014条第2項
遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる

(出典:e-gov-民法)

この規定は、令和元年7月1日以降にされた遺言において適用されます。

なお、これまで通り相続人が単独で登記をすることも、もちろん可能です。

(改正前)相続させる遺言では遺言執行者は相続登記を単独申請できなかった

民法が上記の規定に改正される前では、遺言執行者は相続人に代わって、相続登記を単独で行う権限がありませんでした。

ただし、それは「相続させる旨の遺言」により不動産を相続した相続人についての話です。

相続させる旨の遺言とは、「~を〇〇(人名)に相続させる」という遺言で、「特定財産承継遺言」と呼ばれています。

ちなみに、遺言により不動産を「遺贈」する場合では、これまで通り遺言執行者と受遺者が共同で登記申請を行います。

遺言執行者は相続登記を単独で早急に行うべき【理由】

令和元年7月1日より前にされた遺言では、相続人は相続した不動産の登記を単独で行え、遺言執行者は登記申請をする権限を持ちませんでした。

ではなぜ、相続法が改正され、遺言執行者も相続人のために、相続登記を単独で行えるようになったかご説明します。

同じく相続法改正により、自身の法定相続分を超えて相続した部分には、対抗要件を備えなければ第三者に権利を対抗できないこととされました(民法第899条の2第1項)。

つまり、自分の法定相続分を超えて不動産を相続したようなケースでは、登記をしなければ、第三者に権利(所有権)を対抗できないということです。

これは、債権者がいれば、法定相続分を超えた部分については差押えされる危険がある、ということです。

このため、不動産を相続した相続人は、早急に登記を行う必要が生じました。

そのため、遺言執行者にも相続人に代わって、相続登記を単独で行える権限を認めたわけです。

まとめ

以上、遺言執行者と登記について解説しました。

結論として、不動産を相続した相続人、または遺言執行者は、遅滞なく相続登記の手続きを行ってください、ということです。