特別養子縁組をすると、子や親の戸籍にはどう表示されますか?第三者からすぐ分かるような記載ですか?
特別養子縁組の仕組み、縁組後の戸籍の表示について見本で解説していきます。
この記事でわかること
- 特別養子縁組をした方の戸籍の表示(記載例)
- 特別養子縁組とはどんな制度か
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特別養子縁組の有無は「戸籍」を見ればわかる!
結論として、特別養子の戸籍をよく確認することで、特別養子縁組があった事実は判断できます。
一般的な普通養子縁組とは異なり、実親との親子関係を完全に消滅させる特別養子縁組では、縁組の事実を知られたくないとか、子に気付かれたくないとか不安になる方も多いです。
戸籍の記載から特別養子縁組の事実は確認できるのですが、具体的にどのように記載されるのか、気になる方は多いと思います。
この記事では特別養子縁組と戸籍の表示について、戸籍の見本を使って解説していきます。
とはいえ、知識がなければ一見してわからない配慮がされているので、その点も含めて解説していきます。
特別養子縁組をすると戸籍にどう表記される?【記載例を解説】
特別養子縁組がされた場合に、特別養子、養子の実親、養親のそれぞれの戸籍がどのように表記されるのかご説明します。
基礎:届出後の戸籍の変化
家庭裁判所の審判で特別養子縁組が認められ、役場にて特別養子縁組の届出がされたとします。
この後、戸籍上では次のように変化していきます。
- 特別養子は実親の戸籍から除籍される
- いったん特別養子を筆頭者とする新戸籍が編製(作成)される
- 特別養子は新戸籍から除籍され、養親の戸籍へと入る
上から2つ目の新しく編成(作成)される特別養子の戸籍では、本籍地は実親の本籍地と同じであり、氏(苗字)は養親の氏となっています。
この3ステップにより、最終的に養子は養親の戸籍に入ります。
なるほど、養子となる子は実親の戸籍⇒自分の新戸籍⇒養親の戸籍、と移動するのですね。
除籍(じょせき)とは、今いる戸籍から除かれることです。くわしくは「【ゼロから易しく!】除籍とは?除籍謄本や除籍抄本の違いは?」で解説しています。
特別養子縁組と戸籍の表示【具体例で考える】
それでは、特別養子縁組をした後の戸籍の表示について、具体例をもとに解説していきます。
<実親と子の情報>
- 静岡浜子(本籍:東京都中央区)が、平成18年7月16日に娘(花子)を出産
- 同年7月20日に出生の届出
※花子は婚姻外で生まれ、父親から認知はされていない
<特別養子縁組の情報>
- 平成22年5月4日に、静岡花子と鈴木夫妻(夫:一郎、妻:和子、本籍:東京都豊島区)との間で特別養子縁組の裁判確定
- 同年5月14日に養父母(鈴木夫妻)が特別養子縁組の届出
こんなケースをもとに、戸籍の変化について見ていきましょう。
その1:実親の戸籍の表示(記載例)
特別養子縁組の届出が受理された後の、花子の実親である静岡浜子の戸籍を見てみましょう。
養子である花子の身分事項欄(氏名欄の上)の赤い箇所をご覧ください。
「特別養子となる縁組の裁判確定」と記載がありますね。
このとおり、実親の戸籍を見れば、その表示内容から、特別養子縁組があった旨がよくわかります。
そして、養父母(鈴木夫妻)が特別養子縁組の届出を行った旨の記載があります。
最後に、養子の花子を筆頭者とする新戸籍(本籍は実親と同じ、氏は養親と同じ)が編製されたことで、この戸籍(実親の戸籍)から除籍された旨が記載されています。
ところで、戸籍を見ると、「拾」とか「弐」とか見慣れない漢数字?のような文字がありますが…
「壱」は「一」、「弐」は「二」、「参」は「三」、「拾」は「十」を表しています。ちょっと難しいですね。現在のように戸籍がコンピュータ管理されるようになるまでは、このように表記されていました。
【比較】全部事項証明書の場合
平成6年の戸籍法改正で、コンピュータ管理されるようになった戸籍(全部事項証明書といいます)での表記についても見てみましょう。
上で示した戸籍とは様式が変わるだけで、内容は同じです。
上図で、赤く強調した箇所にご注目ください。
特別養子縁組についての記載があり、花子がこの戸籍から除籍されている旨がわかりますね。この後に養子・花子を筆頭者とする新戸籍が編製されるためでした。
今では、ほとんどの役所で戸籍のコンピュータ化が完了しているので、上記の様式をご覧になった方は多いのではないでしょうか。
いまいち、戸籍謄本と全部事項証明書の違いがわかりません…
戸籍謄本や全部事項証明書については、「戸籍の全部事項証明書とは?戸籍謄本との違い」で詳しく解説しています。
その2:特別養子を筆頭者とする新戸籍の表示(記載例)
続いて、新しく編製(作成)された養子・花子を筆頭者とする戸籍を見てみましょう。
上でご説明したとおり、新しく編製される養子・花子を筆頭者とする戸籍では、本籍地は実親と同じであり、氏は養親と同じです。
実親の戸籍と同様に、養子である花子の身分事項欄には、特別養子縁組があった旨の記載があります。
身分事項欄の最終行の赤い箇所をご覧ください。
「東京都豊島区〇〇 鈴木一郎戸籍入籍につき除籍」と記載されていますね。
つまり、東京都豊島区に本籍がある鈴木一郎(養親)の戸籍に花子が入籍したため、花子を筆頭者とする戸籍は除籍となりますよ、ということが書かれています。
最後に花子の父母欄にご注目ください。
養親の名前がしっかりと記載されていますね。続柄も「養子」ではなく、「長女」と記載されます。
【比較】全部事項証明書の場合
それでは、全部事項証明書での表記についても見てみましょう。
上で示した戸籍とは様式が変わるだけで、内容は同じです。
赤く強調した箇所が特別養子縁組に関する記載です。
花子の身分事項欄では、「養父・養母」ではなく、「父母」になっているのがわかります。
続柄も「養子」ではなく「長女」となっています。
その3:特別養子が入籍する養親戸籍の表示(記載例)
最後に、養子の花子が入籍する養親・鈴木夫妻の戸籍を見てみましょう。
戸籍の筆頭者は養親の鈴木一郎です。
夫の一郎と妻の和子の身分事項が順番に記載され、最後に特別養子となった花子の身分事項が続きます。
養親(鈴木一郎、和子)の身分事項欄をご覧ください。特別養子縁組を行い、養子をとった旨の記載はまったくありません。
では、養子となった花子の身分事項欄をご覧ください。
「特別養子となる縁組の裁判確定」という記載がなくなり、代わりに「民法817条の2による裁判確定」とあります。
民法817条の2って何ですか?
次のように民法に規定があります。
(特別養子縁組の成立)
第八百十七条の二 家庭裁判所は、次条から第八百十七条の七までに定める要件があるときは、養親となる者の請求により、実方の血族との親族関係が終了する縁組(以下この款において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる。
(以下略)
つまり、民法817条の2とは、特別養子縁組の規定となります。
【比較】全部事項証明書の場合
それでは、養親・鈴木夫妻の戸籍についても全部事項証明書での表記を見てみましょう。
養親である一郎と和子の身分事項欄には、花子と特別養子縁組を行った旨の記載はありませんね。
そして、養子の花子の身分事項欄には、「特別養子縁組」という記載はなく、代わりに「民法817条の2」という記載に変更されています。
「民法817条の2」とは?表記される理由
なぜ、「特別養子縁組」という言葉を使わずに、民法の条文番号で記載されているのかといいますと、そのほうが一見してわかりにくいためです。
特別養子縁組が行われた事実を他人に知られたくないという方は多くいます。
つまり、そのための配慮ということです。
このように、養子・花子の現在の戸籍を見ただけでは、わざわざ「民法817条の2って何だ?」と調べることをしなければ、一見して特別養子縁組があったことはわかりません。
花子は最初から養親夫婦の子であったように見えるわけですね。
特別養子縁組は子、実親との親子関係を消滅させる
そもそも特別養子縁組とはどういった制度なのですか?何のためにあるのですか?
特別養子縁組と戸籍の関係について解説したところで、改めて特別養子縁組とはどんな制度であるのか、解説していきますね。
まず、養子縁組には次の2つの種類があります。
- 普通養子縁組
- 特別養子縁組
上記について、簡単にご説明します。
- 普通養子縁組
養子と実親との親子関係が縁組後も継続する - 特別養子縁組
養子と実親との親子関係は完全に消滅する
普通養子縁組では、養子と実親との親子関係が継続するので、養子にとっての親は実親と養親ということになります。
養子の戸籍を見るとわかりますが、実親、養親の氏名がそれぞれ記載されます(普通養子縁組と戸籍の表示)。
特別養子縁組では、養子と実親との親子関係が完全に消滅するので、養子にとっての親は養親だけとなります。
特別養子縁組の制度はなんのためにある?
どうして特別養子縁組のような制度が存在するのか、ご説明します。
そもそも、養子と実親との親子関係を消滅させるので大問題ですよね。
結論として、子の福祉を図るためというのが理由です。つまり、特別養子縁組は「子のための制度」なのです。
たとえば実親が、精神的、身体的、経済的な事情により、子の養育ができない場合があります。さらには、虐待や遺棄など、子の利益が著しく害されるような場合もあります。
これらの場合に、子の利益を守るために、特別養子縁組という制度があるのです。
つまり子の監護ができない、または不適切な実親から子を引き離し、大切に育ててくれる養親のもとへ引き渡すということです。
ただし、特別養子縁組はその影響力の大きさから、厳しい要件を満たした場合にのみ、家庭裁判所の審判によってなされます。
特別養子縁組が認められる要件、裁判所での手続きなどについて、くわしくは下記をどうぞ。
特別養子縁組の「離縁」と戸籍の表記について
特別養子縁組と戸籍の表記については理解できました。ちなみに、特別養子縁組を「離縁」した場合の戸籍の表記はどうなりますか?
離縁とは、一度行った養子縁組を解消する手続きです。
まず、原則として特別養子縁組は離縁することができません。ただし、子の利益を守るため一定の要件を満たした場合に限り、例外として離縁が認められています。
特別養子縁組を離縁することで養親の戸籍、養子の戸籍にそれぞれ離縁事項が記載されることになります。
くわしくは「特別養子縁組の解消(離縁)と戸籍の表示・記載例を解説!(見本あり)」をご覧ください。
まとめ
特別養子縁組をした場合の戸籍の記載例についてでした。特別養子縁組は、普通養子縁組とは異なり、戸籍にどのように記載されるのか心配・不安といった方も多いです。
養親の戸籍を見ただけでは、「特別養子縁組を行った事実」は直接的にはわからないような配慮がされています。
これから自分の戸籍謄本を取り寄せたいと思います。
戸籍は郵送でも取り寄せできます。忙しく役所に行く暇がない方は、郵送で取り寄せてみましょう。