大切な方がお亡くなりになり、相続が開始すると、相続人が複数いれば遺産分割を行うことになります。
ですがその前に、遺産分割の具体的なやり方、遺産分割協議書の作成方法など、最低限知っておかなければならないことがあります。
ここでは、遺産分割の仕組み(協議、調停、審判)、やり方、遺産分割協議書の作成方法、遺産分割が無効、取消、やり直しになる場合などについてご説明していきます。
遺産分割とは「相続財産を分配」すること
遺産分割とは簡単にご説明しますと、被相続人の遺産(相続財産)を相続人に分配していくことです。
そのため、遺産分割に入る前に、相続人と相続財産がはっきりと判明している必要があります。
誰が相続人となるのか、遺産の取り分(相続分)はどれだけかについても知っておきましょう。
ちなみに、被相続人に相続人が1人しかいないような場合には、遺産分割をする必要はありません。なぜなら、その1人が全ての財産(遺産)を相続して終わりだからです。
では、いったいどのような場合に、遺産分割をする必要があるのでしょうか。
実は、相続人が複数存在する場合に、遺産分割が必要となってくるのです。
相続人が複数いる場合、相続が開始しますと、
相続財産(遺産)は『相続人全員が自己の相続分に応じて共有』している状態になります。
この共有状態を解除して、具体的に誰がどの財産を取得するかを確定させる行為が遺産分割となります。
例えば、長男は家を、二男は預貯金を、長女は現金を、という具合に具体的に配分していく作業が遺産分割なのですね。
理解しやすいように、以下に遺産分割のイメージを載せておきますね。
時々次のようにおっしゃる方がいます。
「私たち家族は仲がいいので、遺産分割は必要ないし、相続人全員での共有のままでいい!」
確かに当人同士がご納得されているので、問題はないでしょう。
ただし、もしも将来財産を処分したい場合、いちいち他の共有者の合意をとる必要があるなど、財産の処分が面倒になります。
そのため、とくに支障がなければ、遺産分割をされることをお勧めします。
遺産分割方法の指定を「遺言書」で行う
遺産分割は、相続人が複数いる場合に、遺産の共有状態を解除し、具体的に相続人へ配分していく作業であることをご説明しました。
ただ、この遺産分割の方法についてですが、被相続人が亡くなる前に、遺言書で遺産分割の方法を指定しておくこともできます。
たとえば、「妻の花子には、家と土地を相続させる。長男の太郎には預金1000万円を相続させる・・・」といった具合に指定できます。
このような遺言がある場合、相続人たちは遺言に従えばいいので、遺産分割をする必要はありません。
ただし、これは遺言ですべての財産の分割方法を指定していた場合の話です。
もしも財産の記載漏れがあった場合、漏れた財産については、やはり遺産分割が必要となります。
遺産分割は「協議」「調停」「審判」から成る
遺産分割は、「協議」「調停」「審判」の3つの手続きからなります。
下図のとおり、協議は裁判外で行うものであり、調停と審判は裁判所の力を借りて行います。
遺産分割協議とは?
相続人同士で話し合い、解決をはかるのが、遺産分割協議です。
遺産分割協議を行う場合には、相続人の全員が参加する必要があります。参加しない相続人が一人でもいると、協議全体が無効になり、やり直しとなります。
話し合いで決着がつき、相続人全員で合意できれば、遺産分割協議書を作成します。ここで大切なことは、協議で合意した内容を書面で残しておくことです。しっかりと各自が署名、押印をしましょう。
後々、言った言わないの争いが生じないようにするためです。
【見本】遺産分割協議書の文例(記載例)
遺産分割協議書には、相続人全員が署名・押印(実印)します。
また、協議書は、公正証書として作成するのがベストです。
この方法なら、協議書の原本が公証役場で保管されて安心ですし、誰かが合意した内容に違反した場合に、強制執行等の手続きをとることもできるためです。
※公正証書の作成は全国の公証役場にて行います。
それでは、以下に遺産分割協議書の見本を示します。
遺産分割協議書
被相続人 静岡浜男(平成〇年〇月〇日死亡)の遺産について、相続人である静岡浜子、静岡太郎は協議を行い、下記のとおり遺産分割をすることに決定した。
1.相続人 静岡浜子は次の遺産を取得する。
(1)土地
〇〇市〇区〇〇町××番地××
宅地 〇〇.〇〇平方メートル
(2)建物
同所同番地所在 家屋番号 ××番××
居宅 木造瓦葺2階建
床面積 1階〇〇.〇〇平方メートル 2階〇〇.〇〇平方メートル
2.相続人 静岡太郎は次の遺産を取得する。
(1)みずほ銀行浜松支店 普通預金 口座番号 ××××
上記のとおり、相続人全員による遺産分割協議が成立したので、これを証明するために本書を2通作成し、全相続人が署名、押印の上、各自1通ずつ所持する。
平成〇年〇月〇日
〇〇市〇区〇〇町××番地××
相続人 静岡浜子 ㊞
〇〇市〇区〇〇町××番地××
相続人 静岡太郎 ㊞
タイトルは、「遺産分割協議書」としましょう。
各相続人が取得することになった財産の種類を具体的に記載していきます。
不動産の場合には、見本にありますように、不動産の登記事項証明書に記載されているとおりに記載します。
預貯金についても、銀行名、支店名、預金種別、口座番号まで正確に記載しましょう。
最後に各自が署名・押印(実印)しましょう。
相続手続きでは、実印を使用する機会が多いです。もしも印鑑登録をされていない方は、事前に登録しておくことをおすすめします。
遺産分割調停とは?
遺産分割協議で解決できない場合や、相続人が参加してくれないなどの理由で協議ができなかった場合、裁判手続きがとれます。
裁判手続きには、調停と審判があり、どちらを申し立ててもよいのですが、基本的には調停から開始します。
調停では、調停委員といった第三者が話し合いに入ることで、解決を目指します。
調停の結果、相続人間で話し合いがつけば、裁判所書記官によって調停調書が作成されます。
この調書は公正証書と同様に、違約があった場合に強制執行ができるという効力を持ちます。
家庭裁判所での調停の手続きは裁判所HPでご覧いただきます。
遺産分割審判とは?
調停でも話し合いがつかない場合、自動で審判にうつります。改めて審判の申立てをする必要はありません。
各当事者が主張をし、それを裏付ける証拠資料を提出し、それに基づき裁判官が審判を行います。
協議や調停では相続人同士での話し合いが主でしたが、審判はどちらかといえば訴訟に近く、自由に話し合いで解決するものではありません。
最終的な判断も裁判官が行うので、自分の希望が必ず尊重されるわけではありません。
審判の決定について、不服がある場合は異議を申し立てることもできます。これを即時抗告といいます。
即時抗告をする場合には、審判の告知日の翌日から2週間以内に申立てを行う必要があります。
即時抗告の抗告状は、審判をした家庭裁判所に提出します。
そして、その後の審理は高等裁判所で行われます。
手続きの詳細は裁判所HPでご確認いただきます。
遺産分割の方法
ここでは、具体的な遺産の分割方法についてご紹介します。
お金であれば、分割するのは簡単ですよね。相続人の相続分に応じて、分割するだけです。
では、土地や家といった不動産は、どのように分割すればよいのでしょうか。悩んでしまいますよね。
その分け方をご説明していきます。
遺産分割は、以下の3つの方法があります。
- 現物分割
- 換価分割
- 代償分割
それぞれについて、具体的に見ていきましょう。
現物分割
例えばですが、
- 家 → 長男
- 預貯金 → 二男
- 車 → 長女
といった具合に、文字通り遺産そのものを現物で分ける分割方法です。一番単純でわかりやすい分割方法です。
ただ、現物で分けることから、各相続人 の相続分ぴったりに公平に分けることは難しいと言えます。
そのため、相続人の間で 取り分に大きな差が出てしまう場合は、一部の財産を売却するなどし、その代金で調整したりして解決する場合もあります。
換価分割
相続財産を売却し、お金に換えて分割する方法です。
現物分割と比べ、相続分ぴったりに分割することが可能と言えます。
ただ遺産が土地や建物であり、一部の相続人が「愛着があってお金に換えたくない」、という場合もあるでしょう。このような場合 には向きません。
また換価するにあたり、処分費用がかかる場合があります。
不動産を売却した場合に課税される譲渡所得税についても注意する必要があります。
代償分割
次のような例を考えてみます。
遺産は土地・建物の不動産しかない。相続人は長男、二男の2人である。土地と建物は長男が相続することになった。
上記の場合、二男が相続する遺産がなくなってしまいます。これでは不公平ですね。
ということで、次のように解決をはかります。
「長男が土地建物を相続する。二男については、長男が金銭などの財産を渡すことで公平を図る」
文字通り、土地建物を相続させてもらった代償に、他の相続人にはお金を支払う、という具合です。
例えば、評価額1000万円の不動産が遺産としてあり、相続人が長男、二男の二人の 場合を考えてみます。
2人の法定相続分は同じなので、それぞれ500万円ずつ相続する権利があります。
長男が不動産を相続すると、長男は500万円多く、二男は500万円少ないことになります。
そこで公平となるように、長男が金銭500万円を次男に渡すことで、それぞれ500万円 ずつ相続したことになります。
ただ、この分割方法は、土地建物を相続した相続人に、他の相続人へ代償を払えるだけの資力(財力)がなければ実現しません。
上記の例なら、長男が次男へ500万円払えるだけの財産がなければ、代償分割をすることはできませんよね。
遺産分割協議や調停では、相続人間で合意ができれば、上記以外の分割方法をとることも可能です。
しかし、家庭裁判所での審判となった場合は、原則として現物分割の方法がとられているようです。
遺産分割協議の無効・取消事由
遺産分割協議が無効、または取消しとなる場合があります。
次の要件に該当した場合です。
- 相続人でない者が参加していた
- 不参加の相続人がいた
- 民法上の無効・取消事由に該当した
一つずつ具体的に見ていきましょう。
① 相続人でない者が参加していた
遺産分割協議には相続人全員が参加しなければなりません。
しかし、逆に相続人でない者は参加できません。
例えば、遺産分割協議書に、相続欠格者や廃除された相続人など、相続人でない者の署名があった場合など、協議に相続人でない第三者が参加していた場合は、その遺産分割協議は無効となります。
② 不参加の相続人がいた
ご説明しましたとおり、遺産分割協議にはすべての相続人が参加しなければなりません。
一人でも不参加の相続人がいると、その遺産分割協議は無効となります。
例えば、夫の死後、妻と子で遺産分割協議を実施したが、なんと夫には愛人との間に認知した子が存在していたとします。
愛人の子とはいえ、認知されている以上、夫の相続人です。愛人の子が参加せず行われた遺産分割協議は無効となります。
③ 民法上の無効・取消事由に該当した
民法には、ある事実に該当すると、法律行為や意思表示が無効となったり、取り消しできたりする場合が定められています。
例えば、相続人に意思能力が無い場合や、協議の内容が公序良俗に違反する場合などは、無効となります。
また、協議に参加した相続人の一人が未成年者であった場合や、遺産分割協議の成立に詐欺や強迫があった場合は、その遺産分割協議は取り消すことができます。
遺産分割協議をやり直したい場合
有効に成立した遺産分割協議をやり直す、つまり解除することが可能なのか、ということをご説明します。
解除をするということは、遺産分割をする前の状態に戻すということです。
遺産分割協議とは、一種の法律行為です。
この法律行為の解除には、以下の2種類があります。
- 合意解除
- 法定解除
合意解除とは、法律行為に関わった当事者の全員が、合意のもと行う解除です。
解除に反対する者が一人もいないということで、解除してしまっても全く問題ありません。
法定解除とは、法律行為の当事者の一方が、約束を守らなかった、つまり違反した場合に、他方が行う解除です。
では、遺産分割協議はこの解除ができるのか、ということですが・・・
遺産分割協議は合意解除のみ可能です。
つまり、相続人全員で話し合い、納得して行う合意解除であれば、遺産分割協議を解除することができるのです。
反対に、遺産分割協議の当事者の一人が決定に従わないことを理由に、他の当事者が法定解除することはできないということです。
遺産分割を禁止する
一定の期間、遺産分割を禁止することが可能です。
なぜこのような制度があるのかといいますと、遺産分割をされると困ってしまうケースが存在するためです。
遺産分割をされると困るケース
次のような場合、遺産分割をすると、困る相続人が出てきます。
- 病気で入院中の相続人がおり、遺産分割協議ができない
- 遺産が家だけで、居住する相続人がいる
遺産分割は相続人全員が参加しなければ無効です。
ですが、病状の重い相続人がおり、しっかりと意思表示ができなければ、遺産分割を有効に行うことは不可能です。
唯一の遺産である不動産に居住する相続人がいる場合にも注意が必要です。
相続人が複数いる場合で、換価分割するということになると、同居の相続人は出ていかなくてはなりません。
いずれも今すぐ遺産分割されると困ってしまう例です。
遺産分割を禁止する3つの方法
遺産分割を禁止する方法があります。次のとおりです。
- 遺言による場合
- 遺産分割協議による場合
- 家庭裁判所の調停・審判による場合
遺言による場合
被相続人は生前に遺言で、遺産の全部または一部について、遺産分割を禁止することができます。
その禁止期間は、最長で5年間とされています。
(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)民法第908条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
遺産分割協議による場合
相続人の全員が合意すれば、遺産の全部または一部について、遺産分割を禁止することができます。
禁止期間は最長で5年間です。
さらに合意すれば、期間の伸長が可能とされています。
家庭裁判所の調停・審判による場合
遺産分割協議がととのわず、家庭裁判所での調停・審判となっている場合、特別の事由があれば、家庭裁判所は遺産の全部または一部について、遺産分割の禁止をすることができます。
どういう場合が特別の事由として認められるのかといいますと、次のような場合です。
- 遺産分割の前提である「相続財産の範囲や相続人の範囲」について争いがあり、決着がついていない場合
- 遺産の大部分を占める不動産について、第三者との間で境界争いなどの問題があり、民事訴訟の途中の場合
上記のような特別の事由が障害となって遺産分割が進まず、問題解決後に遺産分割をすることが適切と判断された場合は、審判によって遺産分割禁止の決定がされる場合があります。
遺産分割禁止期間に分割できるか?
遺言、及び家庭裁判所による遺産分割禁止の場合には、禁止期間内に遺産分割をすることはできません。
前者の場合は遺言者の意思に反することになるし、後者の場合は家庭裁判所の審判によるためです。
しかし、相続人の合意による禁止の場合、相続人全員の合意があれば、遺産分割ができます。
まとめ
遺産分割の仕組みと具体的な分割方法、その他知っておくべきことをご説明してきました。
相続とはいきなりやってくるものです。
そのときになって、何をしたらいいのかわからず、困ってしまうことがないように心の準備をしておきたいですね。