配偶者居住権を取得し、居住建物を使用する配偶者は必要に応じて建物の修繕をすることがあるでしょう。ですが費用は誰が負担するのでしょう。配偶者でしょうか、それとも建物所有者でしょうか。

さらに建物を返還する際には、付属物の収去義務や損傷の原状回復義務があります。わかりやすく解説していきます。

この記事でわかること
  • 配偶者による居住建物の修繕について
  • 居住建物の費用負担について
  • 居住建物の返還と収去義務、原状回復義務について
配偶者居住権の仕組み、成立要件、施行日について

配偶者に居住建物の無償使用を認める配偶者居住権の仕組みや成立要件、施行日についてわかりやすく解説しています。

配偶者居住権とは?制度の内容・成立要件・施行日をわかりやすく解説!

居住建物の修繕と建物所有者への通知

配偶者居住権によって居住建物を使用する配偶者は、建物の修繕が必要となった際、まず最初に修繕を行うことができます。

そして、建物の修繕が必要な場合に、相当の期間を経過しても配偶者が必要な修繕をしない場合に限り、建物の所有者が修繕をすることができます。

また、配偶者が自ら修繕するときを除き、修繕が必要な場合、または建物について権利を主張する者がいる場合には、配偶者は建物所有者に対して、遅滞なくその旨を通知する必要があります。

建物の修繕について定める民放1033条を以下に引用します。

(居住建物の修繕等)
第千三十三条 配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。
2 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。
3 居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。

(出典:e-gov-民法)

行政書士 タカ行政書士 タカ

日常的な些細で小さな修繕は別として、特別な修繕が必要となったときは、建物所有者に通知をして判断を仰ぐのが無難です。

居住建物の費用負担について

配偶者居住権によって居住建物を使用する配偶者は、建物に関して生じる通常の必要費を負担しなければなりません。ここでいう通常の必要費とは、例えば建物の固定資産税や通常の修繕費などです。

ただし、特別の必要費(不慮の災害等による修繕費等)や、有益費(建物に造作を設置した費用等)については居住建物の所有者の負担となります。

したがって、配偶者がこれらの費用を負担した場合には、所有者に対して償還を求めることができます。つまり、本来なら建物所有者が支払うべきお金を立て替えたので、後で支払ってください、というイメージです。

なお、建物所有者が償還すべき有益費が高額の場合、その償還において、裁判所が相当の期限を許与することができるとしています。

配偶者の建物に関する費用負担を規定する民法1034条を以下に引用します。

(居住建物の費用の負担)
第千三十四条 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。
2 第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。

(出典:e-gov-民法)

居住建物の返還と収去義務、原状回復義務について

配偶者居住権の存続期間を定め、その期間が満了した場合や、配偶者が居住建物の使用収益において義務違反をし、所有者から消滅請求があった場合には、配偶者居住権が消滅します。

配偶者居住権が消滅した場合、配偶者は居住建物の返還をしなければなりません。

ですが、もしも配偶者が居住建物について、共有持分を有していた場合(建物を第三者と共有していた場合)には、配偶者は自己の持分に応じて建物全体を使用できる権利があります(民法249条)。

よって、このようなケースでは、配偶者居住権が消滅したという理由から居住建物の返還を請求することはできません。

居住建物の返還による収去義務・原状回復義務

配偶者が相続開始後に居住建物に付属させた物がある場合、配偶者居住権の消滅により建物返還をする際には収去する義務があります。

ですが、収去したくても建物から分離できない物や、分離するのに過分の費用を要する物については収去する必要はありません。

また、建物を使用する中で生じた損傷については原状回復義務を負います。つまり、建物を元通りにした上で返還するということです。

ただし、通常の使用から生じた損耗や経年変化については原状回復義務はありません。また、損傷が配偶者の過失によるものでない場合も原状回復義務は負いません。

以下に居住建物の返還と収去義務、原状回復義務について根拠となる民法1035条を引用します。

(居住建物の返還等)
第千三十五条 配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
2 第五百九十九条第一項及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

(借主による収去等)
第五百九十九条 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
2 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。

(賃借人の原状回復義務)
第六百二十一条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

(出典:e-gov-民法)

まとめ

配偶者居住権による建物の修繕、費用負担、返還について解説してきました。建物の費用については配偶者負担となるもの、所有者負担となるものが存在します。また、建物を返還する際には、配偶者は付属物の収去義務、損傷の原状回復義務を負います。ご注意ください。