負債の相続割合を遺言で指定したいのですが、可能でしょうか。また障害を抱えた二男には負債を相続させたくないのですが…
今回は、負債の相続割合を遺言で指定する書き方をご紹介します。
あと、遺言書の書き方もわからないので、できれば教えてください。
遺言書には作成の決まりがあります。不備で無効となることがないよう、作成ルールをあらかじめ、ご確認くださいね。
借金などの負債(債務)を遺言書で相続させる書き方
まずは遺言書の見本で書き方を見てみましょう。具体的な説明はその後にします。
遺言書の文例を以下に記載します。
遺言書
遺言者 山田太郎は、次の通り遺言する。
<特定の負債を相続させる>
第〇条
遺言者は、次の負債、費用を長男山田五郎(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
・遺言者の未払いの公租公課
・遺言者の葬儀、埋葬にかかる費用
・本遺言の執行に関する費用
・以下に示す負債
(特定の負債に関する記載)
<すべての負債を相続させる>
第〇条
遺言者の負債については、すべて長男山田五郎(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
<負債を相続させたくない>
第〇条
遺言者の負債については、三男山田悟(昭和〇年〇月〇日生)には一切相続させない。
令和〇年〇月〇日
静岡県浜松市〇区〇〇町××
遺言者 山田太郎 ㊞
以上、3つのケースで遺言書の文例をご覧いただきました。それぞれについて、以降で解説していきます。
被相続人の負債を相続させる割合を遺言で指定する
被相続人(亡くなられた方)が負債を遺してお亡くなりになるということは、頻繁に起こることです。住宅ローン、自動車ローン、借入金などなど、生前の負債は多岐にわたります。
ですが、被相続人からしたら、次の点で悩むかもしれません。
- 負債を相続させる割合を指定したい
- 特定の相続人にだけ全ての負債を相続させたい
- 特定の相続人には負債を相続させたくない
このような場合、遺言によって負債の相続割合を指定できるのか、という点が問題となるのです。
負債の相続割合を遺言で指定できます
相続財産はプラスの財産(不動産、預貯金など)のほかに、マイナスの財産(負債)も存在します。
そして、遺言がなければ、各相続人が法定相続分に応じて当然に負債を承継することになります。
ですが遺言書で負債の相続割合を指定しておくことで、そのとおり負債を相続させることができるのです。
ポイント1:負債相続割合の指定は相続人間で有効
上記の負債相続割合の指定ですが、遺言書を遺した被相続人の相続人間においては有効となります。つまり、遺言のとおりに相続人たちは負債を相続することになります。
他の財産相続に関する遺言の記載と同様に、負債の相続についても法的効力が生じ、相続人は指定された負債を支払う義務があります。
例えば相続人の一部が負債を相続した相続人の代わりに一時的に負債を支払ったとします。この後、支払った相続人は、本来負債を相続した相続人に対して、支払金の返還を請求できるのです。
あなたの代わりに支払ったから、しっかり返してね、ということですね。
遺言による負債相続割合の指定は、相続人の間で有効となり、法的効力が生じます。
ポイント2:負債相続割合の指定は債権者に対して対抗できない
上で負債の相続割合の指定は相続人の間で有効とご説明しました。ですが負債なので債権者(お金を貸した人など)が存在します。
では、遺言による負債相続割合の指定は債権者に対してはどうなるのか、問題となります。
結論として、遺言による負債相続割合の指定は債権者に対しては対抗できません。対抗とは”主張すること”です。
これはどういうことか例でご説明します。
遺言書のことなど関知しない銀行からしたら、当然法定相続分に応じて支払いの請求をしてくることでしょう。簡単に予想がつきますね。
ですが、遺言によって長男だけが負債の相続をしており、二男と三男は負債など承継していません。ですが、これを銀行に対抗、つまり主張できないということです。
結果的に銀行から請求が来たら、二男や三男は支払いに応じなければなりません。その後、長男に対して支払った分の返還を請求することになります。
なるほど、負債の相続割合の指定については、相続人の間では有効だが、債権者に対しては対抗できないのですね。
はい。これは債権者の立場を保護するための決まりでもあります。無資力の方に全債務を相続させられたら、債権者も辛いですからね。
負債を特定の相続人に相続させない遺言
相続人の中に障害を抱えた子や生活に困窮する者などがいて、彼らには負債をどうしても相続させたくない場合もあります。
そうした場合、特定の相続人には負債を相続させない旨の遺言をすることも可能です。そして相続人の間でこの遺言は有効となります。
ただし、上でご説明したとおり、特定の相続人に負債を相続させない遺言であっても、債権者に対抗することはできませんので、注意が必要です。
つまり、負債を相続しないとされた相続人も、債権者から請求されれば、支払いに応じる必要があります。その後、他の相続人に対してい支払った分の返還請求をすることになります。
遺言書の文例を豊富にご紹介します
この記事でご紹介した他にも、以下のとおり豊富な文例をご用意しております。ぜひご一緒にご覧くださいませ。
※記事へのリンクはこの下にございます。
- 妻に全財産を相続させる(子供のいない夫婦)
- 妻に全財産を相続させる(子供のいる夫婦)
- 相続権のない内縁の妻(夫)に財産を遺す
- 再婚相手の連れ子に財産を遺す
- 子がいるが父母にも財産を遺したい
- 息子の嫁(または娘の婿)に財産を遺す
- 甥、姪に財産を遺す
- 財産を自治体や法人、団体などへ寄付する
- 非嫡出子(婚外子)を認知して財産を相続させる
- 家族の世話を条件として遺産を与える
- ペットの世話を条件として遺産を与える
- 土地、建物及び建物内の全ての財産(家財)を相続させる
- 区分所有建物(分譲マンション)を相続させる
- 借地権を相続させる、または遺贈する
- 農地を相続させる(農業委員会の許可も)
- 預貯金(預金債権、貯金債権)を相続させる
- 株式、投資信託、国債などの有価証券を相続させる
- 自動車を相続させる
- 絵画、書画、骨董品などを相続させる
- 宝石や貴金属などの高価な物品を換金して相続させる
- 子供の相続分に差がある場合の対処
- 借金などの負債を相続させる割合を指定する
- 祭祀主宰者を指定する
- 遺産を与えたくない推定相続人を廃除する
- 予備的遺言を書く(相続人や受遺者の死亡に備える)
- 遺言執行者を指定する
- 未成年後見人、未成年後見監督人を指定する
- 生命保険金の受取人を変更する
上記文例の一覧は、下記の記事にてまとめています。
文例集【遺言書の文例集】ご遺族で争わず、無効にしない書き方・表現リスト要チェック! 相続、遺言の基礎知識まとめ(カテゴリーごとに解説します)
相続、遺言について深く学ばれたい方はぜひご確認ください。