結婚して婚姻届を出した夫婦と出さない夫婦、法律上はどんな違いが生じますか?
今回は、婚姻届を出した夫婦と出していない夫婦の違いを解説していきます。
結婚すれば、役所に婚姻届を出し、同居をし、晴れて夫婦になる、というイメージがあるかと思います。
ですが、中には事実上の夫婦として同居をしているものの、婚姻届を提出していない夫婦も存在しています。
では、婚姻届を出した夫婦と、出していない事実上の夫婦とでは、どんな違いがあるのか、ご説明していきます。
婚姻届を出した夫婦と、出していない夫婦の違い
婚姻届を出した夫婦とそうでない夫婦との違いをご説明します。
まず、婚姻届を出した夫婦の間には、次の効果が生じます。
- 夫婦は同一の氏を称し、同一戸籍に入る(民法750条)
- 夫婦の間に同居義務、扶助義務、協力義務が生じる(民法752条)
- 夫は妻を、妻は夫を相続できるようになる(民法890条)
- 未成年者は婚姻により成年に達したとみなされる(民法753条)
- 父親が認知していた嫡出でない子は嫡出子の身分を取得する(民法789条1項)
反対に、婚姻届を出していない夫婦の間には、上記の効果は生じないということです。
なるほど、こんなにも違いが生じるのですね。
それでは、上記について、掘り下げて解説をしていきます。
夫婦は同一の氏を称し、同一戸籍に入る(民法750条)
婚姻届を提出した夫婦は、婚姻後に名乗る夫婦の氏(苗字)を協議によって、夫の氏にするか、妻に氏にするかを選択します。
そして、夫婦は同一の戸籍に入ることになります。戸籍の筆頭者は夫婦の氏として選択された側の配偶者です。
以下、民法750条、戸籍法16条に、婚姻後の氏と戸籍の定めがあります。
(夫婦の氏)
第七百五十条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。(出典:e-gov-民法)
第十六条 婚姻の届出があつたときは、夫婦について新戸籍を編製する。但し、夫婦が、夫の氏を称する場合に夫、妻の氏を称する場合に妻が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。
○2 前項但書の場合には、夫の氏を称する妻は、夫の戸籍に入り、妻の氏を称する夫は、妻の戸籍に入る。
○3 日本人と外国人との婚姻の届出があつたときは、その日本人について新戸籍を編製する。ただし、その者が戸籍の筆頭に記載した者であるときは、この限りでない。(出典:e-gov-戸籍法)
婚姻後の夫婦の氏は、こうやって選択するのですね。
夫婦は必ずどちらかの氏を名乗る必要があり、さらに同じ戸籍に入る必要があるのです。
夫婦の間に同居義務、扶助義務、協力義務が生じる(民法752条)
婚姻届を出して法律上の夫婦になれば、夫婦はお互いに同居義務、扶助義務、協力義務を負うことになります。
なんだか難しそうだし、責任が重そうですね…
そうですね。ですが、夫婦として暮らしている方々なら、意識せずとも日ごろから行っていることとも言えます。
民法752条に次のとおり規定されています。
(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。(出典:e-gov-民法)
それぞれの義務内容について、簡単にまとめると、次のとおりです。
- 同居義務
原則として夫婦は同居をしなければなりません。ただし、例えば相手が暴力をふるう、単身赴任、夫婦関係が破綻しているような場合など、やむをえない事情がある場合には、別居が認められます。 - 扶助義務
夫婦は、一方が援助を求めている場合、他方が援助を行う義務があります。例えば、互いが同等の生活を維持するために、一方の収入が少ないなら、収入が多い側へ生活費の援助を求めることができます。 - 協力義務
夫婦はお互いに協力して婚姻生活を送らなければならず、一方だけに婚姻生活の責任をすべて押し付けることは許されません。例えば、家事や育児をすべて一方に任せる行為は、協力義務に違反していることになります。
なるほど、婚姻届を出した夫婦の間には、このような義務が発生するのですね。
はい。ですが、多くの夫婦はこのような法律上の義務などわざわざ認識することなく、お互いに助けあって生活していることと思います。
夫は妻を、妻は夫を相続できるようになる(民法890条)
結婚して婚姻届を出すことで、夫婦は法律上の婚姻関係となり、夫は妻を、妻は夫を相続できるようになります。つまり、夫婦の一方が亡くなって相続が開始したとき、もう一方が相続人として財産を取得できるということです。
配偶者の相続について、民法890条に規定があります。
(配偶者の相続権)
第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。(出典:e-gov-民法)
婚姻届を出していない事実上の夫婦(内縁関係)だと、お互いを相続することはできません。
未成年者は婚姻により成年に達したとみなされる(民法753条)
結婚できる年齢ですが、男性は18歳、女性は16歳と定められています(民法731条)。
つまり、未成年者(20歳未満)であっても、結婚はできるということですね。
ただし、未成年者が婚姻したときには、成年に達したものとみなされます。民法753条に規定があります(下記)。
(婚姻による成年擬制)
第七百五十三条 未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。(出典:e-gov-民法)
年齢は未成年なのに、成年とみなされるのですか?ちょっと怖いですね。
そうですね。ですが日本の現在の法律では、結婚によって一人前の大人とみなされるようになっているのです。
結婚により子は成年に達したものとみなされるので、ご両親の親権は消滅しますし、子は自分の財産を自分で管理できるようになり、財産処分などの法律行為も有効にできるようになります。
父親が認知していた嫡出でない子は嫡出子の身分を取得する(民法789条1項)
婚姻関係にない男女の間に生まれた子は、嫡出でない子(非嫡出子、婚外子)といいます。
嫡出でない子は父親が認知をすることで、初めて法律上の父子関係が生じ、子は父親を相続できるようになります。
そして、父が子を認知した後に男女が結婚することで、認知された子は嫡出子の身分を取得できます(婚姻準正という)。
(準正)
第七百八十九条 父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。(出典:e-gov-民法)
まとめ
最後にまとめです。夫婦が結婚して婚姻届を出すことで、次のような効果が生じます。
- 夫婦は同一の氏を称し、同一戸籍に入る(民法750条)
- 夫婦の間に同居義務、扶助義務、協力義務が生じる(民法752条)
- 夫は妻を、妻は夫を相続できるようになる(民法890条)
- 未成年者は婚姻により成年に達したとみなされる(民法753条)
- 父親が認知していた嫡出でない子は嫡出子の身分を取得する(民法789条1項)
反対に言えば、婚姻届を出していない夫婦の間には、上記の法的効力は生じていない、ということになります。
とくに相続については大問題なので、しっかりと覚えておきましょう。