万が一を考え、遺言を書かれる方は多いと思います。
しかし、遺言作成からしばらく経ち、気持ちが変わった、財産状況が変わったなどの理由から、遺言を撤回して新しく作成したくなることもあるでしょう。
今回は遺言の撤回と破棄についてお話します。
- 遺言の撤回のやり方について
- 公正証書遺言を撤回する場合に注意すること
- 遺言を破棄した場合の扱いについて
- 遺言の撤回の撤回はできるのか
遺言書はいつでも何度でも撤回できます
遺言はいつでも、何度でも撤回ができます。一度作成してしまったからといって、もう作り直すことができない、、なんてことはありませんので、安心してくださいね。
まず、遺言の撤回は、遺言によって行います。遺言は後のもの(作成日が新しいもの)が優先されます。
たとえば平成30年3月20日に作成した公正証書遺言を、平成30年4月1日に作成した自筆証書遺言で撤回する、ということが可能です。
この点、民法に規定があります。
(遺言の撤回)
第1022条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。(出典:e-gov-民法)
上記1023条の、「前の遺言が後の遺言と抵触するとき」というのは、たとえば、次のような場合です。
第一の遺言:不動産の甲を太郎に遺贈する
第二の遺言:不動産の甲を花子に遺贈する
上記の2つの遺言では、不動産の甲についての内容が抵触(物事が互いに矛盾し衝突すること)していますね。つまり、上記の場合には、後に作成した第二の遺言の内容が優先され、不動産の甲の受遺者は花子に決定するわけです。
上記の抵触する部分について、第一の遺言は、第二の遺言で撤回されたわけですね。
ちなみに、遺言者は遺言をいつでも撤回できるわけですが、この遺言を撤回する権利を放棄(捨ててしまう)することはできません。
遺言が、第三者から不当な圧迫を受けて行われたなど、遺言者にとって不本意な内容である場合に遺言を撤回できなければ困るからです。
(遺言の撤回権の放棄の禁止)
第1026条 遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。(出典:e-gov-民法)
公正証書遺言の撤回に注意【必ず作り直しを!】
公正証書遺言を作成する場合、公証人によって遺言書の原本、正本、謄本の3種類が作成されます。そして、原本は公証役場に保管され、正本と謄本は遺言者に交付されます。
ということは、遺言者が手元の公正証書遺言の正本や謄本を訂正したり破棄したりするだけでは、遺言の撤回をしたことにはなりませんよね。なぜなら公証役場に保管されている原本に何の影響もないためです。
よって、公正証書遺言を訂正・撤回したい場合には、新しく遺言を作成する必要があるのです。
新しく作成する遺言は、また公正証書遺言でも、今度は自筆証書遺言でも構いません。とにかく作り直すことが重要なのですね。
遺言書を自ら破棄した!遺言書の効力はどうなる?
では、遺言者が遺言書を自ら破棄した場合はどうなるでしょうか。以下の2つのパターンで考えてみましょう。
- 故意に破棄した場合
- 過失により破棄した場合
故意に破棄した場合は、遺言者の最終意思が「遺言の破棄」なのです。つまり、遺言者が遺言を撤回したとみなされます。ただし、撤回したとみなされるのは、破棄した部分のみです。
次に、誤って真っ二つに破いてしまったなど、過失によって破棄してしまった場合は、そこに遺言者の撤回したいという意思がありません。誤って破棄してしまったためです。ですので、この場合は遺言は撤回されません。
しかし過失といえども、例えば遺言書が焼失し、すべてが灰になってしまってはどうしようもありません。この場合は、遺言内容の立証ができない(証拠がない)ので、遺言は撤回したと同様の結果になるといわれています。
(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
第1024条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。(出典:e-gov-民法)
「遺言の撤回」の撤回はできません
原則として、遺言の撤回の撤回はできません。撤回の撤回?わけがわからないですね。
たとえば、第一の遺言があるとします。そして、第二の遺言で、第一の遺言を撤回したとします。これで第一の遺言の効力はなくなります。
ここでさらに、第三の遺言によって、「第一の遺言を撤回した第二の遺言」を撤回したとしても、第一の遺言の効力は復活しませんよ、ということです。
一度撤回してしまった第一の遺言をもう一度残したいのであれば、再度作り直すしかないということです。民法1025条が規定しています。
(撤回された遺言の効力)
第1025条 前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。(出典:e-gov-民法)
しかし、例外として、第三の遺言から、「遺言者の、第一の遺言の復活を希望する明らかな意思が読み取れる」ときに、第一の遺言の効力の復活を認めた判例もあります。( 最高裁判所第一小法廷 平成9年11月13日 )
また、第一の遺言を撤回した第二の遺言が、第三者による詐欺や強迫によって仕方なくされたものであった場合には、例外として、第二の遺言を取り消すことで、第一の遺言の効力は復活します。
まとめ
今回は遺言の撤回についてでした。遺言は一度作成してしまうと、もう最後までそのまま?なんてことはありませんからね。いつでも何度でも自由に撤回できるのです。とても大切なことなので、この機会に是非覚えておいていただければ幸いです。
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