自筆証書遺言(以降、「遺言書」)は一定の法的要件を満たせば、誰でも簡単に作ることができます。

ですが、果たして完成した遺言書を封筒に入れるべきか、さらに封印(封じ目に印を押す)はするべきか困惑される方は多いと思います。

そこで、この記事では以下の内容を解説していきます。

記事のテーマ
  • 封筒に入れていない遺言書の有効・無効について
  • 封印されていない遺言書の有効・無効について
  • 封印されている遺言書の開封について
自筆証書遺言の要件

自筆証書遺言を作成するにおいて、書き方にルールがあります。そのため形式上の不備などがあった場合、遺言が無効となる危険があります。

自筆証書遺言の作り方を知りたい方は、「わかりやすい!正しい遺言書の書き方、加除訂正、封筒の例【見本あり】」をご覧ください。

遺言書は封筒に入れなくても有効です

遺言書はとても大切な書類(証書)であり、長期間保管されるものでもあるので、完成した遺言書は封筒に入れたいと思うのは当然でしょう。

それでは、遺言書は封筒に入れなければ無効となってしまうのでしょうか。遺言内容を書いた紙1枚のまま保管するのはダメなのでしょうか。

結論:遺言書は封筒に入れなくても有効です。無効にはなりません。

このとおり、作成した遺言書は封筒に入れなくても、そのまま保管しておいても全く問題ありません。封筒に入れることまでは自筆証書遺言の要件ではないからです。

以下、自筆証書遺言として有効となるための要件を示します。

  • 全文、日付、氏名が自書されており、押印がある
  • 加除訂正が定められた方法で行われている

以下、民法968条に規定されています。

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

(出典:e-gov-民法)

遺言書を保管する!「封筒なし」はお勧めできません

自筆証書遺言は封筒に入れずとも遺言そのものは有効であるとお伝えしました。

そうはいっても、やはり遺言書は封筒に入れて保管されることをお勧めします。紙のままでは、紛失してしまう危険もあります。

しっかりと封筒に入れ、糊付けし、紛失することがないように保管するべきでしょう。

遺言書を封筒に入れるメリット

遺言書を封筒に入れて封をしておくメリットをお話しします。次のような利点があります。

  • 第三者に無断で開封され、偽造、変造される心配がなくなる

遺言書を封筒に入れてしっかりと糊付けしておくことで、上記のようなメリットがあるのです。

もしも封筒に入れずそのまま保管していた場合、遺言の内容が気に入らない相続人によって、遺言書の内容が書き換えられる可能性もあります。

封をする場合には、アラビックヤマトのような液体のりを使用することをお勧めします。封をするのにセロテープは使用しないでください。簡単にはがせてしまいます。

遺言書を封筒に入れる場合のサンプル(見本)

遺言書を封筒に入れる場合の封筒の見本について以下に示します。

見本のように、封筒の表面には「遺言書」と書きましょう。裏面には、「家庭裁判所での検認を受ける旨」を書いておきましょう。

あとは日付と氏名を書き、封印しておけば良いでしょう。

遺言書の保管場所はどこがいい?

遺言者が亡くなり、遺族が遺言書を探したところ、仏壇や箪笥、書斎の本棚から見つかったという話をよく聞きます。

遺言書は生前に発見してほしくはないので、簡単には見つからない場所に隠すのが一般的です。ですが、遺言者が亡くなった後はすぐ見つからないと相続手続きが滞ってしまいます。

最悪の場合、見つからないまま相続が終わってしまった、ということも起こりかねません。これだと遺言者の意思が尊重されない結果に終わってしまいます。

遺言書の保管場所ですが、信頼できる家族、知人に任せる、もしくは法律の専門家(弁護士や行政書士)に保管を依頼することをお勧めします。

銀行の貸金庫に預けておく方もなかにはいらっしゃいます。確実ではありますが、相続開始後、貸金庫を開くには相続人全員の実印と印鑑証明書が必要です。

絶対に避けたいのは、誰にも見つからない場所に隠してしまい、最後まで発見されないことです。

遺言書が封印されていない【封印がなくても有効です】

封筒の封じ目に印鑑などで印を押すことを封印といいますね。それでは、自筆証書遺言を作成するにあたり、封筒に封印は必要でしょうか。

封印がされていなくても、遺言書は有効です。

このとおり、封筒に封印がされていなくても、遺言書そのものは有効です。自筆証書遺言の要件に封印の有無は関係ありません。

それでも、遺言書を封筒に入れたら、糊付けして封印するまでを1セットと考えましょう。そうすることで、遺言書の無断の開封や改ざんを防止することができるからです。

封印に使う印鑑は、遺言書本体で署名、押印したものと同一の印鑑を使いましょう。

遺言書が封印されているケース【検認まで開封しない】

もしも発見した遺言書が封筒に入れられ、封印がされていた場合には、家庭裁判所の検認を受けるまで決して開封しないでください。

民法1004条、1005条に次のとおり罰則が規定されています。

(遺言書の検認)
第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。

(過料)
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。

(出典:e-gov-民法)

上で示しました封筒の見本に、「家庭裁判所での検認を受けるまで開封しない旨」が記載されているのはこのためです。

この事実を知らない方は多いと思いますが、封印されている遺言書をすぐに開封してしまわないように注意しましょう。

遺言書の検認手続き、家庭裁判所への申立について「検認とは?遺言書の検認手続き、裁判所への申立書の書き方、必要書類を解説」で解説しています。

 

まとめ

自筆証書遺言は封筒に入れなくても無効にはならないが封筒に入れるべきこと、封印の必要性、検認前の開封と罰則について解説しました。

遺言書はとても大切な証書であるので、紛失や偽造、改ざんには注意したいものですね。