遺言書を書く人『遺言書には署名・押印が必要とのことですが、印鑑は何が良いのでしょう。
実印でなければいけませんか?印鑑登録していないのですが…
認印やシャチハタ、拇印ではダメでしょうか?』

こんな疑問にお答えします。

以下のテーマで解説していきます。

記事のテーマ

  • 遺言書の押印に使う印鑑は、実印である必要があるのか
  • 認印、シャチハタ、拇印、花押は使えるのかどうか

遺言書には印鑑(押印)が必要です

遺言書(自筆証書遺言)を作成される場合には、必ず署名・押印が必要となります。これが欠けた遺言書は無効となってしまいます。

遺言書に押印されていることで、遺言者本人の意思(真意)を読み取ることができます。さらに、日本では文書を完結させるために、最後に押印するというのが、古くからの慣行でもありますね。

民法968条では、自筆証書遺言の作成について、次のように押印を求めています。

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

(出典:e-gov-民法)

遺言書の印鑑は実印でないとダメ?認印・シャチハタ・拇印・花押は?

自筆証書遺言を作成するのに、押印が必要なことはわかりましたね。

ですが、日本には様々な種類の印鑑が存在し、いったいどの印鑑を使用したらよいのか迷ってしまいます。実印の他にも、認印、シャチハタ、拇印、花押など多くの種類があります。

普段使い慣れているからといって、遺言書に押印したところ、無効だった…なんてことになったら最悪です。

以降では、それぞれが遺言書の押印として使用できるか否かを解説していきます。

遺言書の印鑑:「実印」である必要はあるか

まずは実印についてです。遺言書に使う印鑑は実印である必要があるのか、ということです。

遺言書への押印に使う印鑑は、「実印」である必要はありません

民法968条は、遺言書の要件として押印を求めていますが、実印による押印までは求めていません。したがって、印鑑は実印でなくても問題ありません。

ただし、それでも実印を押した方が望ましいことに変わりはありません。実印ならば、本人による押印であると確信が持てるからです。

遺言書の作成に「実印」を使用する場合には、念のため印鑑証明書を同封しておくことをお勧めします。相続が開始した後、遺言書の印影が本人の実印であると証明できるからです。

ポイント

印鑑証明書(印鑑登録証明書)には、印鑑登録した者の住所、氏名、生年月日、実印の印影が表示されています。

遺言書の印鑑:「認印」でも良いか【結論:有効です】

続いて認印についてです。多くの方が所有しているであろう代表的な印鑑ですよね。

遺言書の印鑑として、「認印」は使用できます

はい、認印でも遺言書の押印の要件を満たします。実印がないから遺言書が作成できない、ということはありませんので安心してください。

遺言書の印鑑:「シャチハタ」でも良いか【結論:有効です】

どこでも簡単に手に入るシャチハタですが、果たして遺言書の押印として有効なのでしょうか。

遺言書の印鑑として、「シャチハタ」は使用できます

このとおり、シャチハタも遺言書の押印に使う印鑑として使用できるのです。

ただ、シャチハタは容易に手に入るのと、印影にオリジナリティーがないこともあり、遺言書に押印するのはちょっと不安があります。

シャチハタが押印されていることで、あとあと第三者が勝手に押したのではないか?という疑いがかけられるかもしれません。

そのためにも、やはり本人の管理下にある実印が押されているのが、一番望ましい方法であるといえます。

遺言書の印鑑:「拇印」でも良いか【結論:有効です】

拇印とは、親指の腹に朱肉を付けて、それをギュっと押すものですね。あまり拇印を押す機会はないかもしれません。

遺言書の印鑑として、「拇印」は使用できます

拇印も問題なく、自筆証書遺言の押印として使用できます。以下に、関連判例の一部を示します。

自筆証書によつて遺言をするには、遺言者が遺言の全文、日附及び氏名を自書した上、押印することを要するが(民法九六八条一項)、右にいう押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもつて足りるものと解するのが相当である。

(出典:最高裁判所第一小法廷判決-平成元年2月16日)

遺言書の印鑑:「花押」でも良いか【結論:無効です】

花押について、皆さまはご存知でしょうか。花押とは、日本でも古くから使用されてきたサインの一種です。

もともとは署名をしていたものが、記号に変わり、署名者本人と他者を区別するために図案化し、特殊な形である花押となっていきました。

参考までに、安倍首相の花押が以下になります。(写真左下)

(出典:首相官邸HP)

遺言書の印鑑として、「花押」は使用できません。

認印もシャチハタも遺言書の押印として使用できたのに、花押は使えないのです。いったいどうしてでしょうか。以下に、根拠となる裁判所判例を示します。

我が国において,印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。以上によれば,花押を書くことは,印章による押印と同視することはできず,民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。

(出典:最高裁判所第二小法廷判決-平成28年6月3日)

まとめ

自筆証書遺言の要件となっている押印について、実印、認印、シャチハタ、拇印、花押について使用できる、できないを解説してきました。

花押以外ならばどれを使用しても問題ありませんが、実印が望ましいです。本人の真意が読み取れること、第三者の偽造も起こりにくいことが挙げられます。

また、できればシャチハタは使用しない方が無難でしょう。シャチハタはどこでも手に入るため、第三者に勝手に押されてしまうという危険がつきまとうからです。

 

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