被相続人(故人)が残した自筆証書遺言を見て相続人が、「うん?なんかおかしいぞ!本当に本人が書いた遺言書か?」と疑いをもつことがあるかもしれません。

そんな場合に、そのまま何もしなければ、その疑わしい遺言が執行されることになります。

そこで、納得できない相続人が「遺言の無効」を主張して争う、「遺言無効確認請求訴訟」についてお話します。

この記事でわかること
  • 遺言の無効・取消が主張されることの多いケース
  • 遺言の無効確認を求める調停について
  • 調停で解決できなかった場合の訴訟について

遺言が無効となる主な事例

遺言無効確認事件では、主に次に示すような点で、遺言の無効が主張されることがあります。

  • 遺言者に遺言能力がなかった
  • 証人欠格者が遺言の証人になっていた
  • 遺言の方式に不備があった
  • 詐欺や強迫によって遺言がなされた

上記について、深掘りして解説します。

遺言者に遺言能力がなかった

遺言能力とは、遺言の内容を理解し、遺言の結果、どのような効力が生じるのかが理解できる能力をいいます。もしも遺言者が重度の認知症だった場合、遺言能力がなかったと判定される場合があります。

証人欠格者が遺言の証人になっていた

自筆証書遺言の作成では、証人は必要ありません。ですが、公正証書遺言、秘密証書遺言では手続き上、2人以上の証人が必要です。

ですが、未成年者、推定相続人やそれに近しい親族などは証人にはなれません。

遺言の方式に不備があった

自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言と、それぞれ民法で規定された方式があります。これを満たさない遺言は、無効となります。

詐欺や強迫によって遺言がなされた

遺言者が第三者からの詐欺や強迫によって仕方なく作成した遺言は後で取り消すことができます。

 

上記のような点を主張して、「その遺言は無効じゃないか」と争うわけですね。当然その主張を裏付ける証拠がないといけませんが。

遺言無効確認の手続き【調停⇒訴訟】

遺言の無効確認事件の手続きは、原則、まず調停を行い、そこで解決できなければ、訴訟を提起する形となります。

調停による遺言無効確認

遺言無効確認事件は、家庭に関する事件であり家事調停の対象となります。

家事事件手続法は、こうした家事調停の対象となり得る事件について訴え(訴訟)を提起する場合には、先に家庭裁判所に調停を申し立てなければならないと定めています。これを、調停前置主義といいます。

家事事件手続法の257条に下記のとおり規定されています。

(調停前置主義)
第257条 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
2 前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。
3 裁判所は、前項の規定により事件を調停に付する場合においては、事件を管轄権を有する家庭裁判所に処理させなければならない。ただし、家事調停事件を処理するために特に必要があると認めるときは、事件を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に処理させることができる。

(出典:e-gov-民法)

つまり、本記事のテーマである「遺言無効確認請求訴訟」を提起するには、まずは家庭裁判所での調停を経た後にしてくださいね、ということです。

ただ、上記の条文にもありますとおり、調停を経ずにいきなり訴えを提起した場合でも、当事者の対立が激しく、調停を行っても解決の余地がないと判断されれば、いきなり訴訟手続きの審理へと進む場合もあるようです。

訴訟による遺言無効確認

調停で解決ができなかった場合は、遺言無効確認請求訴訟を提起することになります。

ここで注意したいのが、調停は家庭裁判所でしたが、この遺言無効確認請求訴訟を提起する先は、地方裁判所です。

遺言の無効を主張する相続人が原告になり、遺言が有効であると主張する相続人が被告となります。また、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が被告になります。

訴訟の場では、当事者が事実関係を主張し、主張を裏付ける証拠を提出します。

たとえば、自筆証書遺言の筆跡が問題となっている場合では、遺言者の筆跡鑑定が行われることもあります。したがって、遺言者の筆跡がわかる日記などの証拠を多く残しておくとよいでしょう。

遺言の無効を主張されないようにする工夫

遺言書が本当に無効である場合もありますが、本来有効な遺言書に対しても、相続人によって無効を争われるケースはあります。例えばですが、遺言の内容に納得できない相続人がいるケースが該当します。

遺言とは遺言者の最後の大切な意思表示です。せっかく作成した遺言書が無効になるのは本当に辛いことです。

そのため、遺言が無効と争われることがないよう、次のような点に注意して作成しましょう。

  • 遺言能力がある内に遺言書を作成する
  • 証人になれる要件を理解しておく
  • 遺言書の作成規定(法律)を理解しておく
  • 遺言者の筆跡がわかるメモ書きを添えておく
  • 遺言書執筆の様子をビデオで撮影する

よく勘違いされる方がいますが、遺言書とは、本来は元気な内に作成するものです。いつ何が起こっても大丈夫なように、将来に備えて作成しておくものなのです。

公正証書遺言を作成される方は多いですが、証人が2人以上必要です(通常は2人)。証人欠格事由に該当しないか注意しましょう。

自筆証書遺言を作成される方は、遺言書が有効となるための要件をしっかりと理解しておきましょう。

最後に、遺言書が本当に遺言者の真意にもとづくものであるかどうかを保証するために、遺言者の筆跡がわかるメモ書きを添えておく、遺言書作成の様子をビデオで撮影する等の工夫があります。

まとめ

遺言書が無効だと主張される主なケース、無効を確認する調停、訴訟について解説してきました。せっかく作成した遺言書が無効となるのは本当に悲しいことですし、相続人の争いを招く原因にもなってしまいます。遺言書を作成される際には、ぜひ注意してください。

 

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