法定相続人の遺留分とは何ですか?計算方法も、請求方法もわかりません。
今回は法定相続人の遺留分について、くわしく解説していきます。
ということで、この記事では遺留分の仕組み、計算方法、遺留分侵害額請求の方法について、イラストでわかりやすく解説していきます。
法定相続人の「遺留分」って何?【答:最低限の遺産の取り分】
遺留分(いりゅうぶん)とは、相続人に保障された最低限の遺産の取り分であります。
これは、被相続人(亡くなられた方)がいなくなった後も、遺族の方が生活に困らないように、一定の相続人に最低限の遺産相続を保障しているのです。
そもそも相続において、相続人の遺産の取り分(相続分)は法律で決められています(法定相続分、民法第900条)。
また、被相続人は生前に遺言書を作成することで、誰にどれだけ遺産を与えるかを指定できます。そして、第三者に全財産を相続させるような遺言もできます。
つまり、もしも被相続人が相続人である家族を放っておいて、第三者に全財産を与えるような遺言書を作成したら、どうしましょう。
相続人である配偶者や子がいれば、生活に困ってしまいますよね。
このような遺言が発見された場合でも、遺留分が保障されていることで、相続人は一銭も相続できない、という事態を避けられるのです。
後ほど詳しく解説しますが、遺留分が保障されている相続人は遺留分侵害額請求をすることで、自己の最低限の相続分を確保することができます。
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遺留分は法定相続人のどこまで(どの範囲まで)保障される?
遺留分は相続人に保障された遺産の最低限の取り分とご説明しました。しかし、すべての相続人が保障されるわけではありません。
遺留分は被相続人と特に近い関係にある相続人にのみ保障される仕組みです。
相続人の範囲は次のとおりです。
- 配偶者
- 第1順位の相続人(子や孫などの直系卑属)
- 第2順位の相続人(父母や祖父母などの直系尊属)
わかりやすくイラストで表現すると、下図のようになります。
被相続人が亡くなられた方です。
その配偶者、第1順位の子、第2順位の父母まで遺留分が保障されています。
なお、被相続人の孫が相続人になるのは、代襲相続が起こる場合です。つまり、被相続人の子が既に亡くなっており、その子に子(被相続人から見た孫)がいる場合です。
被相続人の祖父母が相続人になるのは、被相続人の父母がどちらも既に亡くなっている場合に限られます。
兄弟姉妹は法定相続人でも遺留分が保障されない
注意すべき点として、第3順位の相続人である兄弟姉妹には、遺留分が保障されていません。
ですので、被相続人の兄弟姉妹が相続人となるケースで、兄弟姉妹に一銭も入らない遺言が見つかっても、被相続人は遺留分がないので取り返すことはできません。
なお、誰が相続人となるか、相続順位、遺産の取得割合については「法定相続人の範囲と相続順位・相続分を解説【雛形を無料贈呈!】」にて解説しています。
法定相続人の遺留分の「割合」を知る!
遺留分の割合について、民法に次の規定があります。
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。(出典:e-gov-民法)
条文の意味するところは、遺留分は、遺留分を算定するための財産の価額に、割合(3分の1又は2分の1)を乗じることで求めるということです。
どちらの割合を計算に用いるかは、相続人の状況で決まります。
わかりにくいので、イラストで解説します。
遺留分の割合① 直系尊属のみが相続人のとき(3分の1)
下図をご覧ください。直系尊属のみが相続人となる場合です。
このときの遺留分は3分の1を使います。つまり、遺留分を計算するための財産の価額に3分の1を乗じることで、その相続人の遺留分額が求められます。
上図の例では、直系尊属である相続人が二人いるので、各々の法定相続分に遺留分割合を乗じることで計算します。
遺留分の割合② 直系尊属のみが相続人ではないとき(2分の1)
次は相続人が直系尊属だけでない場合です。配偶者もいる場合を考えます(下図)。
この場合、遺留分割合は2分の1を使います。つまり、遺留分を計算するための財産の価額に2分の1を乗じることで、その相続人の遺留分額が求められます。
上図の例では、相続人が複数人いるので、各々の法定相続分に遺留分割合を乗じることで計算します。
具体例:法定相続人の遺留分の計算をしてみる
それでは、実際に遺留分の計算をしてみましょう。
以下の具体例を考えてみます。
- 相続人
配偶者、二人の子 - 相続財産
資産1500万円、負債500万円
イラストで表すと次のとおりです。
それでは実際に相続人の遺留分を計算していきます。
その前に、遺留分を算定するための財産の価額を確認してみましょう。
1.遺留分を算定するための財産の価額を計算する
各相続人の遺留分の額を計算する前に、まずは遺留分を算定するための財産の価額を調べる必要があります。
この財産の価額に遺留分割合を乗じて、最終的な遺留分の額を計算するのです。
遺留分を算定するための財産の価額は次の式で計算できます(民法1043条、1044条)。
遺留分を算定するための財産の価額=被相続人が相続開始時に有した財産の価額+生前に贈与した財産の価額-債務の全額 |
それでは具体例に当てはめて計算してみます。例では生前贈与はありません。
遺留分を計算するための財産の価額=1500万円-500万円=1000万円 |
この1000万円が、遺留分を算定するための財産の価額です。
もしも被相続人が生前に贈与をしていた場合、贈与額も計算式に含めます。なお、相続人に対する贈与は原則10年以内の贈与を、第三者に対する贈与は原則1年以内の贈与を計算式に含めます(民法1044条3項)。
2.遺留分の価額を計算する
相続人の具体的な遺留分の価額は次の計算式で求めます。
遺留分を算定するための財産の価額×遺留分率×法定相続分 |
遺留分率とは前述の2分の1や3分の1といった割合です。具体例では相続人が直系尊属のみの場合でないので、遺留分率は2分の1を使用します。
具体例をもとに計算式に当てはめると、各相続人の具体的な遺留分は次のようになります。
|
相続人が配偶者と子2人の場合、各々の法定相続分は配偶者が2分の1、子それぞれが4分の1となります(法定相続分の解説)。
具体例では、相続人3人の遺留分の額は上記のとおりとなります。この価額が、3人が最低限得ることができる遺産の取り分ということです。
法定相続人の遺留分を侵害することの意味
法定相続人の遺留分を計算してきたのですが、この遺留分の侵害とは一体どういう意味であるのか、ご説明します。
たとえば、被相続人が生前に遺言書を作っており、そこには次のように書かれていたとしましょう。
遺贈(いぞう)とは、遺言で自己の財産を無償で譲る行為を言います。このような遺言があると、被相続人の全財産がA子さんにわたってしまうことになります。
このまま遺言が執行されれば、法定相続人には一銭も財産が入ってこないことになります。つまり、上で計算した遺留分の額を相続人は相続することができなくなるわけです。
遺留分すら相続できない状態を、相続人の遺留分が侵害されている、といいます。
仮に愛人に財産の一部を遺贈する遺言であっても、あくまで一部の遺贈であり、相続人の遺留分を侵害しない額の財産が相続できれば、遺留分の侵害とはなりません。
それでは、侵害された遺留分を取り返したい場合にはどうすればいいのか、次で解説します。
遺留分侵害額請求とは?【金銭で取り返す制度】
遺留分侵害額請求権とは、法定相続人の遺留分が侵害された場合、侵害するきっかけとなった財産を受け取った受遺者または受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる権利です。
令和元年7月1日より前には遺留分減殺請求権という制度でしたが、民法改正によって遺留分侵害額請求となり、金銭での請求に一本化されました。
遺留分侵害額請求の相手方、請求順序、侵害額の計算方法などは「遺留分侵害額請求権とは?遺留分と遺留分侵害額の計算方法をわかりやすく解説」をご覧ください。 |
ここでの受遺者とは、遺贈を受けた相手のほか、特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人も含まれます(民法1046条)。
受贈者とは、生前贈与の相手方です。
遺留分の侵害から侵害額請求までの流れを簡単にまとめると、次のようになります。
- 被相続人がAに遺贈をした
- 被相続人はBに生前贈与をしていた
- 上記行為により、財産がなくなった
- 相続人Cの遺留分が侵害された
- CはA、Bに遺留分侵害額請求をした
- 遺留分の限度で金銭の支払いを受けた
遺留分侵害額請求の順番について
遺留分を侵害した相手方が複数いる場合、遺留分侵害額請求を行う順番が明確に決められています。詳細は「遺留分侵害額請求権とは?遺留分と遺留分侵害額の計算方法をわかりやすく解説」をご覧ください。
遺留分侵害額請求はいつまでできる?【期間制限に注意】
遺留分侵害額請求を行うには期間制限があるので、早めに行動しましょう。
具体的には次のとおりです(民法1048条)。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。(出典:e-gov-民法)
つまり、相続開始の事実を知り、さらに自己の遺留分を侵害する遺贈や贈与があったことを認識した時点から1年間が期限となります。
また、仮にこれらの事実を認識しないまま期間が経過した場合であっても、相続開始から10年が経過した場合も同様に、遺留分の請求はできなくなります。
遺留分侵害額請求の方法【内容証明郵便が一般的】
遺留分侵害額請求をする場合、最初は生前贈与や遺贈を受けた相手と直接話し合いで解決を試みますが、それで解決しない場合(相手が納得しないなど)は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります(遺留分侵害額の請求調停)。
相手との話し合いには、これといって特別な方法は決められていません。口頭で相手に伝えることもできますが、請求をしたという記録を残すために、一般的には内容証明郵便が用いられます。
以下に、内容証明郵便で遺留分侵害額請求を行う場合の、文例をご紹介します。
通知書
亡父は、令和〇年〇月〇日付公正証書遺言により、長男である貴殿に対し、唯一の遺産である東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番所在の土地建物(以下「本件不動産」といいます。)を相続させました。
しかし、私は、亡父の二男として、遺産の4分の1につき遺留分を有しています。
上記遺言により私の遺留分が侵害されましたので、私は貴殿に対し、遺留分侵害額請求を行います。つきましては、遺留分侵害額である〇〇円(本件不動産の評価額の4分の1)を、本書到達後1週間以内に下記振込口座にお支払い下さい。
(振込口座)
〇〇銀行〇〇支店
普通 ×××××××
ヤマダタロウ
上記のとおり、以下の内容を記載しましょう。
- 遺言により自己の遺留分が侵害されたこと
- 遺留分侵害額請求を行うこと
- 相手方への請求事項とその期限
内容証明の決まりごと
内容証明では、用紙の指定はありませんが、1枚に書ける行数制限、1行に書ける文字数制限があります。さらに使用可能な文字や字数の計算方法も厳格に決まっています。
くわしくは、以下の記事をご覧ください。
おすすめ内容証明の基本となる書式(縦書き・横書き)と用紙、文字数の数え方法定相続人は遺留分を放棄することもできる
法定相続人は自己の遺留分を放棄する(捨ててしまう)こともできます。放棄すると、遺留分侵害額請求もできなくなります。
遺留分の放棄は、そのタイミングによって次のような扱いになります。
- 相続開始前の放棄(民法1049条)
⇒家庭裁判所の許可が必要 - 相続開始後の放棄
自由に放棄可能
たとえば相続人の一人が遺留分を放棄しても、その分他の相続人の遺留分が増えるということはありませんのでご注意ください。
そもそも遺留分を侵害する遺言は有効か?
ここまで記事を読まれた皆さま、次のような疑問を持たれた方もいるかもしれません。
相続人の遺留分を侵害する遺言は有効なのか?
はい、有効なのです。そのために遺留分侵害額請求という救済手段が用意されているのです。
被相続人が生前にとてもお世話になった人に、どうしても財産を遺贈したい、という場合もあります。
その気持ちをくみとって、遺族もあえて相手方に遺留分侵害額請求をしない、ということも十分にあり得ます。
つまり、被相続人の最後の意思表示ということで、尊重するために、このような遺言も有効となるのです。
まとめ
遺産の最低限の取り分である遺留分についてご説明してきました。知識がないと、ご自分の遺留分が侵害されていることに気づかず、損をしてしまうこともあります。気づいたときには、時効でもう請求できなくなっているのです。
遺留分の制度とその計算方法は、知っておいて損はないでしょう。
また、遺留分侵害額請求のやり方もそんなに難しくはありません。まずは内容証明郵便で相手に気持ちを伝えましょう。