今回は遺贈の放棄がテーマです。遺贈というのは、遺言により自己の財産を譲る行為ですね。
遺言の作成から年月が過ぎ、遺言者の財産状況や環境なども変化したことで、場合によっては、遺贈の内容に納得がいかず、断りたい場合もあるでしょう。遺贈に何かしらの負担(義務)が付いてきた場合にはなおさらです。
ここでは、相続の放棄と同様に、遺贈も放棄できるのかについてお話します。
遺贈とは何か?
遺贈(いぞう)とは、遺言によって第三者に財産を無償で譲ることを言います。他にも、何かしらの負担(義務)を付けて遺贈することも可能です。
遺言書には、たとえば「鈴木花子に株式会社〇〇の株式5万株を遺贈する」のように記載します。ここで、遺贈を受ける鈴木花子のことを受遺者といいます。
遺贈は相続人に対しても行えますし、相続人以外の第三者に対しても行えます。
ただ、遺言を書く際には、一般的に相続人に対しては「~を相続させる」とし、相続人以外の第三者に対しては、「~を遺贈する」と記載します。(相続人ではない者に「~を相続させる」とは書けない)
また、もしも受遺者が遺言者より以前に亡くなっていた場合には、遺贈はその効力を失います。
(受遺者の死亡による遺贈の失効)
第994条 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。(出典:e-gov-民法)
遺贈は2種類ある(特定遺贈と包括遺贈)
遺贈には、特定遺贈と包括遺贈の2種類があります。それぞれについてご説明します。
- 特定遺贈
遺言者の特定の財産を遺贈する場合
たとえば、「〇〇銀行の普通預金1000万円を花子に遺贈する」のような場合
- 包括遺贈
相続分を割合で指定して遺贈する場合
たとえば、「相続分の1/3を花子に遺贈する」のような場合
要するに、特定遺贈はある特定の財産を指定して、それを遺贈するものであり、包括遺贈は特定の財産を指定せず、全財産の中から割合を指定して行う遺贈と言えます。
以降でもご説明しますが、包括遺贈では、受遺者は相続人と同一の権利義務を有することになります。
たとえば、包括受遺者(包括遺贈を受ける受遺者)は、相続人とともに遺産分割協議に参加することも可能です。遺贈の対象となる財産は割合として指定されているため、具体的にどの財産を譲り受けるかを決定する必要があるためですね。
包括受遺者は、相続人と同様の権利義務を負うので、もしも被相続人(亡くなった人)に負債があれば、遺贈の割合に従って、負債も引き受けなければなりません。
遺贈の放棄と期限【特定遺贈と包括遺贈】
遺贈は放棄できます。
ここでは、特定遺贈と包括遺贈の放棄について、それぞれ解説していきます。
特定遺贈の放棄と期限
まず、特定遺贈の放棄について、民法は次のように規定しています。
(遺贈の放棄)
第986条 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。(出典:e-gov-民法)
つまり、特定遺贈については、受遺者はいつでも放棄することができるということです。期間制限がないので、遺贈を受けるかどうかを落ち着いて考えることが可能です。
ただし、期間制限がないといっても、相続人や遺言執行者から、「いついつまでに、遺贈を承認するか、放棄するかを判断してください」と催告された場合には、それまでに意思表示をしなければなりません。(民法987条)
(受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告)
第987条 遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす。(出典:e-gov-民法)
特定遺贈の放棄は、相続人もしくは遺言執行者に対する意思表示により行います。
包括遺贈の放棄と期限
では、包括遺贈についてはどうでしょうか。
まず、民法990条が次のように言っています。
(包括受遺者の権利義務)
第990条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。(出典:e-gov-民法)
民法990条では、包括受遺者は相続人と同じ権利と義務をもつと言っています。
これは何をいっているのかといいますと、遺贈の放棄をする場合は、相続人が相続放棄をする場合と同じようにしましょう、ということです。
相続の放棄について、こんな規定があります。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
(出典:e-gov-民法)
つまり、包括受遺者が遺贈の放棄をする場合には、「自己のために包括遺贈があったことを知った時から、3ヵ月以内に遺贈の放棄をしなければならない」ということです。この3ヵ月間を熟慮期間といいます。
また、包括遺贈の放棄は、家庭裁判所への申述により行います。
(相続の放棄の方式)
第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。(出典:e-gov-民法)
特定遺贈はいつでも放棄が可能であり、包括遺贈は放棄するのに期間制限がある。これが遺贈を放棄する場合の注意事項です。
遺贈の放棄は撤回できない
いったん遺贈の放棄をした場合、たとえ熟慮期間がまだ残っていたとしても、放棄を撤回することはできません。
民法989条1項に次のとおり規定されています。
(遺贈の承認及び放棄の撤回及び取消し)
第989条 遺贈の承認及び放棄は、撤回することができない。(出典:e-gov-民法)
ただし、遺贈の放棄が、第三者からの詐欺や強迫による場合には、放棄を取り消すことができます。
まとめ
遺贈の放棄についてご理解いただけたでしょうか。
遺贈には特定遺贈と包括遺贈があり、特定遺贈はいつでも放棄が可能です。包括遺贈の放棄には期間宣言がありました。
いずれにしても、遺言者からの遺贈に気づいた場合には、承認・放棄に関わらず、とくべつ問題がなければ速やかに意思表示をするべきでしょう。