自筆証書遺言の方式緩和によって、遺言作成が楽になったと聞きました。どういう意味でしょうか?仕組みを教えてください。
今回は自筆証書遺言の方式緩和について、わかりやすく解説していきます。
平成30年7月6日に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立し、7月13日に公布されました。
改正内容の1つとして、自筆証書遺言の方式の緩和というものがあります。簡単に言えば、遺言書を作成するのがとても楽になった、というイメージです。
何がどう変わったのか、改正された法律の施行日はいつからか、ご説明していきます。
内容はとっても簡単です。肩の力を抜いてご覧くださいね。
これまで面倒だった自筆証書遺言の作成方式
そもそも自筆証書遺言って何でしょうか?
自筆証書遺言は、3種類ある遺言書の中で、一番お手軽に費用をかけず作成できる遺言書の種類です。
遺言書は一般的に以下の3種類からなります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の違い、特徴については以下の記事で簡単にまとめています。
おすすめ【徹底比較】普通方式の遺言は全部で3種類【安全性・手数料・作り方】
この3つの中で、一番手軽に作れるのが自筆証書遺言です。というのは、他の2つは遺言書の作成に公証役場まで赴く必要があったり、費用もかかるからです。
自筆証書遺言は自宅でもどこでも、自分ひとりで作成することができます。手数料もかかりません。
ただし、全文、日付、氏名を自書(つまり手書き)し、押印しなければならず、訂正方法も厳格に決められています。
全文を自書するのはちょっと辛いですね。だって、不動産や預貯金の情報とか記載事項は多くあるはずです。
おっしゃる通りで、この財産特定に関する記載がかなり遺言者の負担となっていました。
このルールを守らないと遺言書が無効となる恐れがあります。一番手軽に作れますが、ある程度の法律の知識が必要となるわけですね。
おすすめ【生前対策】遺言書の書き方・文例をケース別に解説!(見本あり)
自筆証書遺言の方式緩和:財産特定に関する記述(財産目録)の手書き不要に
上でご説明しましたとおり、自筆証書遺言は全文を手書きで作成する必要があります。
それを規定した条文が、以下になります。
民法第968条
1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。(出典:民法 – e-Gov法令検索)
そして、民法の改正により、次のように変更されました。
(改正)民法第968条
1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
変わった部分は、赤色で示しました箇所です。改正された条文では何を言っているのかといいますと、
遺言書に財産目録を添付する場合には、その財産目録については自書でなくてもよい(つまり手書きでなくても良い)ということです。
自筆証書遺言の見本を見ていただくとわかるのですが、遺言書には「どんな財産を誰に相続させるか」といった内容を書いていきます。
ですが、この財産の特定に関する記述は詳細に書く必要があり、結構面倒なのです。
不動産について言えば、所在、地番、地積、家屋番号などを書く必要がありますし、預貯金について言えば金融機関名、支店名、名義、口座番号などです。
財産の種類が多いほど、手書きするのが面倒になるわけですね。
こんなに手書きが多くて、書き間違えがあったらどうしよう…
もしも書き間違えがあると、決まりに従って正確に訂正する必要があります。場合によっては書き直した方が良いケースもあります。
こうした理由から、自筆証書遺言作成にかかる負担を少しでもなくすために、上記のような改正が実施されたのです。
ただ、別にこれまで通りすべて手書きで作っても全く問題ありませんからね。財産目録を手書きで作ってはいけないと言っているわけではありません。
念のためですが、遺言書の加除訂正の決まりについて、以下の記事で解説しています。
おすすめ【生前対策】遺言書の書き方・文例をケース別に解説!(見本あり)添付する財産目録の全ページに「署名押印」をする
さきほど掲載しました改正後の条文の一部を再度以下に示します。
赤色の箇所にご注目ください。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
条文のとおり、手書きによらずに作成した財産目録については、各ページに署名と押印が必要となります。
また、片面だけでなく両面に記載されている場合(両面印刷した場合など)には、その両面に署名・押印をします。
ここで使用する印鑑は、遺言書の本文に押したものと同一のものを使用すれば間違いないでしょう。
自書ではない財産目録を添付する場合、目録の全てのページに署名押印するわけですね。
財産目録の作成方法について
遺言書本体に別紙として添付する財産目録は手書きでなくとも良いということでした。そして、各ページに署名・押印する必要があるのでした。
ですが、条文にはそれ以外に特に何も書かれていません。この点からして、財産目録の作成については、以下のとおり行うことができます。
- パソコン等による作成
- 遺言者以外の者による代筆
- 不動産登記事項証明書、預貯金通帳等の写し(コピー)の添付
不動産に関する情報を1つ1つ登記事項証明書から読み取って、手書きで書いていくよりも、そのまま登記事項証明書の写し(コピー)を添付資料にした方が楽ですよね。
預貯金通帳なども、金融機関名や口座番号などがわかる面をコピーして、添付して使えるわけです。
このように作成した目録には、署名押印を忘れずに!
遺言書と、添付する財産目録(別紙)の見本
遺言書とそれに添付する財産目録の見本をご紹介します。
見本においては、「行書体」で書いてある部分が手書き部分であり、「ゴシック体」で書いてある部分がパソコンで打ったものとお考えください。
1枚目の遺言書の本体は全て自書です。2,3枚目の別紙1,2はパソコン作成とコピーです。署名押印もしっかりしています。
見本のとおり、「別紙1」「別紙2」などを活用し、遺言書本文では「別紙1の財産を・・・」というように書いておくと作成が楽になります。
改正法の施行日はいつ?
これまでご説明してきた自筆証書遺言の方式緩和に関してですが、この改正法の施行日は「2019年1月13日」となります。既に施行されております。
つまり、上記の日付以降に作成された自筆証書遺言については、改正法が適用されることになります。
逆に、2019年1月12日までの日付で作成されたものに関しては、改正法が適用されないことにご注意ください。この場合、すべて手書きで書く必要があります。
まとめ
自筆証書遺言の方式緩和についてご説明しました。財産目録を添付する場合においては、自筆でなくても良いということでした。その場合には、目録の各ページに自筆で署名・押印をする必要があるのでした。
今後は自筆証書遺言を作成される方がますます増加していくことと思われます。法務局での遺言書保管制度と相まって、方式緩和がされたためです。
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