わたしの財産を相続させたくない子がいます。どんな遺言を作れば良いでしょうか。
今回は、推定相続人を廃除する遺言書の書き方をご紹介します。
ちなみに、遺言書の作成ルールがわからないのですが…
はい、遺言書の作成にはルールがあります。不備があると無効になるので、以下の記事をお読みいただくと安心です。
推定相続人を廃除する遺言書の書き方
実際に遺言書の見本で確認してみましょう。
遺言書の文例を以下に記載します。
遺言書
遺言者 山田太郎は、次の通り遺言する。
第1条
遺言者の長男山田五郎(昭和〇年〇月〇日生)は、遺言者に対してしばしば暴力をふるい、実家の金銭を無断で浪費するなど、著しい非行があったため、遺言者は長男山田五郎を廃除する。
第2条
遺言執行者を以下の通り指定する。
弁護士 鈴木一郎
鈴木法律事務所 静岡県浜松市〇区〇〇町××
令和〇年〇月〇日
静岡県浜松市〇区〇〇町××
遺言者 山田太郎 ㊞
見本にあるように、相続させない場合には「~~を廃除する。」という書き方をします。詳細は以降で解説します。
また、遺言で相続人の廃除を行う場合には、同時に遺言執行者の指定をする必要があります。以降でご説明します。
「廃除」とは推定相続人の相続権を剥奪する制度(排除ではないです)
「廃除」とは「はいじょ」と読み、推定相続人から相続権を剥奪する制度です。間違えやすいですが、「排除」ではありません。
ここで、推定相続人という言葉の意味は、現時点で人が亡くなったと仮定した場合、亡くなられた方の相続人になる予定の人をいいます。
相続権を剥奪するという意味は、文字通り、被相続人の相続において、廃除された人は財産を相続できなくなるということです。
廃除は被相続人が生前に家庭裁判所に申立てを行い、審判によりなされますが、遺言によって行うことも可能です。
廃除が認められる要件
廃除とは、誰でもできるのですか?
廃除の影響力の強さから、廃除するには要件を満たす必要があります。
被相続人が推定相続人を廃除するには、次の要件を満たしている必要があります。
- 推定相続人が被相続人に対して、虐待や重大な侮辱をしたり、その他の著しい非行があること
- 廃除の相手は遺留分を有する推定相続人であること
遺言書の見本をご覧ください。廃除の理由として、「虐待」「著しい非行」を挙げていますね。このように財産を相続させたくない相当な理由がなければ、廃除はできません。
廃除についての詳しい解説は、以下の記事でしております。
おすすめ相続欠格と廃除の違いは?相続欠格事由と廃除の要件、手続きを解説!廃除は遺留分を有する推定相続人しかできません
上で示した要件に「廃除の相手は遺留分を有する推定相続人であること」とありますね。
廃除と推定相続人はわかったのですが、遺留分とは何ですか?
はい、遺留分について説明しますね。
遺留分とは、被相続人の配偶者、直系卑属(子や孫)、直系尊属(父母、祖父母)に保障された、最低限の遺産の取り分をいいます。被相続人の兄弟姉妹には遺留分は保障されていません。
つまり、廃除ができる推定相続人とは、被相続人の配偶者、直系卑属、直系尊属に限られ、兄弟姉妹を廃除することはできません。
うん?余計に混乱しました…
ですよね。なぜ、こんな決まりがあるのか、簡単にご説明します。
例えば、被相続人が「相続人以外の第三者に全財産を与える」遺言を作ったとします。すると、相続人である配偶者や子などは、一切相続できないことになります。
遺留分が保障されている相続人が遺留分の限度ですら財産を相続できないことになり、このような状態を相続人の遺留分が侵害されているといいます。
ここで、遺留分が侵害された相続人は、侵害のきっかけとなった財産を取得した相手に、遺留分侵害額の請求をすることで、遺留分の額を回復する限度で、金銭を取り戻すことができるのです。
このような遺留分侵害額請求ができるのは、遺留分が保障された被相続人の配偶者、直系卑属、直系尊属だけであり、兄弟姉妹は含まれません。
ということで、兄弟姉妹に財産を与えたくないのであれば、兄弟姉妹には財産を一切与えないような遺言書を作成すれば解決です。何故なら、兄弟姉妹から遺留分侵害額請求をされる心配はないからです。
ですが、遺産を与えたくない相手が遺留分が保障された相続人である場合、そのような遺言を作っても、遺留分の請求をされたら、結局財産が渡ってしまいますね。
これを避けるために、遺留分が保障された推定相続人を廃除する、という制度があるのです。
なるほど、それで廃除は遺留分を有する推定相続人しかできないわけですね。
遺言で廃除するなら「遺言執行者」を指定する
廃除は、家庭裁判所での審判によって行われます。遺言は遺言者の死後に効力が生じるので、誰かが裁判所への申し立てをしなくてはなりません。
そのため、遺言者の死後、遺言の内容どおりに廃除の手続きを行ってくれる遺言執行者を指定する必要があります。
遺言執行者とは、文字通り、遺言の内容を実現させる者をいいます。
遺言執行者とは、誰がなってもいいのですか?
はい、基本的には誰がなっても構いません。ただし、例外として一部なれない人もいますので、詳しくは以下の記事をご覧ください。
なお、遺言執行者を指定するための遺言書の書き方は以下の記事をご覧ください。
おすすめ【遺言書の文例】遺言執行者を指定する|執行者の権限、事務委託、報酬など遺言書の文例を豊富にご紹介します
この記事でご紹介した他にも、以下のとおり豊富な文例をご用意しております。ぜひご一緒にご覧くださいませ。
※記事へのリンクはこの下にございます。
- 妻に全財産を相続させる(子供のいない夫婦)
- 妻に全財産を相続させる(子供のいる夫婦)
- 相続権のない内縁の妻(夫)に財産を遺す
- 再婚相手の連れ子に財産を遺す
- 子がいるが父母にも財産を遺したい
- 息子の嫁(または娘の婿)に財産を遺す
- 甥、姪に財産を遺す
- 財産を自治体や法人、団体などへ寄付する
- 非嫡出子(婚外子)を認知して財産を相続させる
- 家族の世話を条件として遺産を与える
- ペットの世話を条件として遺産を与える
- 土地、建物及び建物内の全ての財産(家財)を相続させる
- 区分所有建物(分譲マンション)を相続させる
- 借地権を相続させる、または遺贈する
- 農地を相続させる(農業委員会の許可も)
- 預貯金(預金債権、貯金債権)を相続させる
- 株式、投資信託、国債などの有価証券を相続させる
- 自動車を相続させる
- 絵画、書画、骨董品などを相続させる
- 宝石や貴金属などの高価な物品を換金して相続させる
- 子供の相続分に差がある場合の対処
- 借金などの負債を相続させる割合を指定する
- 祭祀主宰者を指定する
- 遺産を与えたくない推定相続人を廃除する
- 予備的遺言を書く(相続人や受遺者の死亡に備える)
- 遺言執行者を指定する
- 未成年後見人、未成年後見監督人を指定する
- 生命保険金の受取人を変更する
上記文例の一覧は、下記の記事にてまとめています。
文例集【遺言書の文例集】ご遺族で争わず、無効にしない書き方・表現リスト要チェック! 相続、遺言の基礎知識まとめ(カテゴリーごとに解説します)
相続、遺言について深く学ばれたい方はぜひご確認ください。