保有する財産の多い少ないに関わらず、元気なうちに遺言書を作成されることは、本当に大切なことです。その理由は、相続になって大切な家族(相続人)が争わずに済むためです。
近年、世の中でも遺言書の重要性がますます指摘されるようになり、遺言書を作成される方も増加傾向にあります。
そうはいっても、遺言書の書き方がまったくわからない、、というのが実情かと思います。ですので、この記事では無効にならない遺言書の書き方からケース別の文例まで、多数ご紹介していきます。
専門家に頼らずお一人で遺言書がゼロから作れるよう、遺言書に関する知識(基礎から応用)を可能な限り詰め込みました。かなり長文となっていますが、下の目次をご覧いただき、お好きな箇所からご覧ください。
基本的には上から順番にお読みいただくことで、遺言書をお一人で有効に作成できるようになります。
この記事では遺言書に関する全体像の解説を主としています。それぞれの事項についてさらに踏み込んだ解説は、要所要所で関連記事をご紹介しています。時間があるときに、そちらもお読みくださると、より理解が深まります。
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遺言書の作成に必要な「遺言能力」と、遺言でできること【まとめ】
そもそも遺言書を書く(作成する)には、本人に遺言能力が備わっていなければなりません。遺言能力が認められない方が作成した遺言書は無効となります。
また、遺言でできること、つまり書くことで法的効力が発生する事項も法律で決められています。これらを正しく理解しておかなければ、遺言書を作成することはできません。ご注意ください。
遺言能力とは何か?遺言書でできることについては、以下の記事で詳しく解説しています。
遺言の効力発生はいつから?遺言能力と判断基準、遺言で「できること」
遺言書の種類
遺言書には以下に示す3種類が存在します。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
具体的な作成方法、書き方は後ほどくわしく解説していきますが、3つの遺言を簡単に説明すると、以下のとおりです。
自筆証書遺言 | 遺言者が自宅など好きな場所で作成でき、作成費用もかからない。遺言書は全文が自書で作成される。 |
公正証書遺言 | 公証役場という場所で法律の専門家である公証人に作成してもらう遺言書。遺言書に公証人のお墨付きをもらえるが、費用がかかる。 |
秘密証書遺言 | 遺言者が自宅など好きな場所で作成するが、作成した遺言書を公証役場で公証人の前に提示して完成する。費用がかかる。 |
3つの遺言書の中で最も手軽に作成できるのが、自筆証書遺言になります。その他の遺言書は公証人が関わるので、その分手間が増え、費用もかかります。
実務では自筆証書遺言または公正証書遺言を作成される方が多いです。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言の書き方について解説してきます。
全文・日付・氏名を自書して押印する
自筆証書遺言を作成する場合、必ず遺言者本人が全文、日付、氏名を自書し、押印をしなければなりません。
これは法律(民法)で定められた決まりであるため、これが満たされていない自筆証書遺言は無効となってしまいます。民法968条1項に次の通り規定されています。
(自筆証書遺言)
第968条1項 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。(出典:e-gov-民法)
日付は年月日まで正確に記載します。ですので、「3月吉日」のような書き方ではいけません。
押印については認印でも問題ないですが、可能であれば実印がおすすめです。
自筆証書遺言の書き方について、より詳しくは「わかりやすい!正しい遺言書の書き方、加除訂正、封筒の例【見本あり】」で解説しています。
自筆証書遺言の加除訂正の方法
自筆証書遺言を書いていて、書き間違えをしてしまった場合の修正方法についてです。
加除訂正についても民法で細かく規定されているので、知っておきましょう。
訂正、削除、追加の3パターンに分けて解説していきます。
① 訂正のやり方
訂正は次のように行います。
- 訂正箇所を二重線で消し、訂正後の文字を書き込む
- 訂正箇所の付近(隣)に押印する
- 欄外に「〇字削除、〇字加入」と記載して署名する
② 削除のやり方
続いて削除のやり方です。次の通り行います。
- 削除する文字を二重線で消す
- 削除した箇所の付近(隣)に押印する
- 欄外に「〇字削除」と記載し署名する
③ 追加のやり方
最後に追加のやり方です。次のように行います。
- 追加したい箇所に文字を書き込む
- 追加箇所の付近(隣)に押印する
- 欄外に「〇字加入」と記載して署名する
以上、訂正、削除、追加の方法でした。
加除訂正のイメージがわかない方は、「わかりやすい!正しい遺言書の書き方、加除訂正、封筒の例【見本あり】」にて遺言書の見本を図で示して解説しています。そちらをご覧ください。
自筆証書遺言の方式緩和について
平成30年7月6日に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立し、7月13日に公布されました。改正内容の1つとして、自筆証書遺言の方式緩和というものが含まれます。
すごく簡単に解説しますと、遺言書の作成がこれまでより楽になった、というイメージです。
具体的にご説明しますと、次の点が変わります。
- 遺言書に財産目録を添付する場合には、その財産目録については自書でなくてもよい
何を言っているのか解説します。
遺言書には、相続人に対して相続させる財産の内容を一般的に書きます。たとえば、「長男の太郎には甲不動産を相続させる。」という具合に書いていきます。
ですが、不動産や預貯金といった財産は特定できるように詳細に記載する必要があり、これが煩雑であり、遺言者にとって負担となっていました。
そのため、改正後の法律では、財産を特定するための記述(財産目録)に関しては、自書しなくても良い、つまり手書きでなくても良いとされました。
つまりは、パソコンで作成する、コピー(複写)するという方法でも構いません。ただし、財産目録をこのように自書によらず作成する場合、それぞれの用紙(ページ)に署名と押印をする必要があります。
財産目録を作成する見本、署名・押印のやり方については、「自筆証書遺言の方式緩和『財産目録の手書き不要』、施行日はいつ?見本あり」をご覧ください。
書面が2枚以上の場合は「契印」をする
自筆証書遺言を書いていて、書面が1枚に収まらず2枚以上になる場合には、用紙をホッチキス等でとめ、契印をするようにしましょう。
契印とは、書類が複数枚となった場合に、それらが同一(一式)の書類であることを証明するとともに、勝手に抜かれたり、追加されたりされていないことも証明します。
契印のやり方としては、1枚目と2枚目に渡って印鑑の印影がどちらにも残るように押印します。イメージとしては、下図のような具合です。
自筆証書遺言と「検認」について
自筆証書遺言を発見した相続人は、速やかに家庭裁判所に遺言書の検認の申立てを行わなければなりません。
検認については以降で詳しく解説しますが、簡単に言えば遺言書の発見時の状態を証拠として保全すること、遺言書の存在を相続人に通知することが目的と言えます。
検認手続きが終わるまで遺言の内容を執行できませんので、注意が必要です。
※検認について⇒11 自筆証書遺言・秘密証書遺言で必要な「検認」とは
要チェック! 相続、遺言の基礎知識まとめ(カテゴリーごとに解説します)
相続、遺言について深く学ばれたい方はぜひご確認ください。
公正証書遺言の書き方
公正証書遺言の書き方について解説していきます。
公正証書遺言は自筆証書遺言とは異なり、公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。そのため、遺言者は遺言の文案を書き起こしておき、それを公証人に伝えることになります。
自筆証書遺言のように、全文自書といった要件はありません。
公正証書遺言を作成するメリットは?
遺言書の作成に法律の専門家が関わるので、形式上の不備で遺言書が無効となる心配がまずありません。
さらに、自筆証書遺言は遺言者本人が保管することになりますが、公正証書遺言の原本は公証役場で保管してもらえるので、紛失する恐れもありません。
また、悪意の第三者によって遺言の内容を変えられたり、隠匿されたりする恐れもないため、最も安全で確実な遺言書ということになります。
公正証書遺言の作成の流れ
公正証書遺言が出来上がるまでの流れを以下に示します。
- 証人2人と公証役場に向かう
- 公証人の前で遺言内容を口述する
- 遺言者、証人、公証人がそれぞれ署名、押印する
基本的にはこのような手順で作成していきます。
上記のとおり、公正証書遺言の作成には2人以上の証人が必要となります。証人は遺言者の方で準備するか、弁護士や行政書士などの専門家に依頼することも可能です。
以下、公正証書遺言について規定した民法969条を示します。
(公正証書遺言)
第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
証人になれない者(欠格者)
公正証書遺言を作成する上で必要な証人は大きな責任を伴う立場にあります。ですので、誰でも証人になれるわけではありません。
具体的には、以下に示す者は証人となることができないので、注意してください。
- 未成年者
- 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
簡単に言えば、責任能力が乏しいもの、遺言者と近しい関係にあるもの、公証人と近しい関係にあるものは証人にはなれません。
(証人及び立会人の欠格事由)
第974条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人(出典:e-gov-民法)
公正証書遺言の作成にかかる手数料
公正証書遺言の作成には公証人が関わるので、作成に手数料がかかります。
手数料の計算方法ですが、相続人や受遺者ごとに、承継する財産の額に応じて計算していきます。そのため、相続人や受遺者が多いほど、また財産額が多いほど手数料は増えていきます。
具体的な計算方法は「【公正証書遺言】作り方、公証役場の手続き、選ばれるメリットを解説」で解説しています。ご覧ください。
受遺者とは遺言で財産を遺贈される者のことです。遺贈とは財産を無償で与える行為です。
遺言検索システムで遺言書を探す
公証役場で作成し原本が保管される公正証書遺言については、遺言者の死後、遺言書の存否を検索することができます。
全国の公証役場に設置された遺言検索システムを利用することで行います。
遺言書の検索ができるのは、法定相続人、受遺者、遺言執行者といった利害関係人に限られます。
遺言者の死後、速やかに遺言書の存在が明らかになる必要がありますが、遺言書の存在を相続人らが知らないということも十分あり得ます。そのため、公正証書遺言については全国の公証役場で検索システムを利用することで、遺言書の存否などを確認できるのです。
遺言検索システムの使い方、必要書類、手数料などより詳しいことは「公正証書遺言を検索する|公証役場の遺言検索システムの使い方」で解説しています。
秘密証書遺言の書き方
秘密証書遺言の書き方について解説していきます。
秘密証書遺言は自筆証書遺言と同様、遺言者が自宅など好きな場所で遺言書を作成し、封筒に入れ封印したものを公証役場で公証人に提示することで作成します。
秘密証書遺言は証書への署名は自書ですが、それ以外は自書である必要はありません。ですので、署名以外の本文についてはパソコンなどで作成しても問題ありません。
秘密証書遺言を作成するメリットは?
秘密証書遺言を作成することのメリットは、遺言書の存在を公証役場で証明してくれること、遺言書の内容を誰にも知られずにすむということです。
公正証書遺言の場合は、遺言書の内容が少なくとも2人の証人と公証人には知られてしまいます。
ですが秘密証書遺言は封をした遺言書を公証人の前に提示するので、中身を知られることがないのです。
秘密証書遺言の作成の流れ
秘密証書遺言が出来上がるまでの流れを以下に示します。
- 遺言者が遺言書の本文を作成し、署名・押印して封筒に入れる
- 遺言書に用いた印で封筒に封印をする
- 公証人、証人2人以上の前に封筒を提示し、公証人、遺言者、証人それぞれ署名、押印する
公正証書遺言との違いは、秘密証書遺言は遺言者自身で遺言書本体を作成し、封筒に入れ封をした状態で公証人の前に提示することです。
このため、公証人は遺言書の本文を確認するわけではないので、万が一にも遺言書に不備があった場合、無効となる可能性もあります。ここは自筆証書遺言と同じです。
ここで重要なポイントは、秘密証書遺言では、遺言書に押印したのと同じ印章をもって、封筒に封印をするということです。
より具体的な要件については、「秘密証書遺言の書き方&作成手数料とメリット・デメリット」で解説しています。あわせてご覧ください。
民法970条に次の通り規定されています。
(秘密証書遺言)
第970条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第九百六十八条第三項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。(出典:e-gov-民法)
秘密証書遺言の作成にかかる手数料
秘密証書遺言も公証人が関与するため、作成手数料がかかります。
秘密証書遺言の場合は、一律11,000円の手数料となります。日本公証人連合会のホームページに記載されています。
秘密証書遺言の加除訂正の方法
秘密証書遺言の加除訂正も自筆証書遺言の場合と同様に行うこととされています(民法970条2項)。くわしくは、自筆証書遺言の加除訂正の解説をご覧ください。
特別方式遺言について
特別方式遺言といって、特別な状況下でのみ作成できる遺言書があります。
そもそも遺言書には普通方式の遺言と、特別方式の遺言があります。普通方式とは、これまで解説してきた自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言が該当します。
特別方式の遺言とは、以下に示す 4つがが該当します。
- 死亡危急者遺言
- 伝染病隔離者の遺言
- 在船者の遺言
- 船舶遭難者の遺言
このとおり、いずれも死に瀕しているなど、特別な状況下にあって、普通方式の遺言書を作成している時間がないような場合にのみ、作成が許されている遺言書です。
特別方式遺言の要件として、医師や警察官の立ち合いが必要だったり、証人3人以上の立ち合いが必要だったりと、遺言書が有効と認められるための要件が厳格に決められています。
より具体的な作成方法、要件については「遭難者は遺言書が作れるの?緊急事態に作成する【特別方式の遺言】を解説」で解説しています。
要チェック! 相続、遺言の基礎知識まとめ(カテゴリーごとに解説します)
相続、遺言について深く学ばれたい方はぜひご確認ください。
【遺言書の文例】ケース別・財産別に多数ご紹介します
ここまで無効とならない遺言書の書き方・作成方法を解説してきました。
とはいえ、今すぐ書こうと思っても、どのように書き始めたらいいのか、何か参考にできる例文はないか、など困ってしまうと思います。
そのため、ここでは一般的に考えられるケースについて、遺言書の書き方、文例を多数ご紹介していきます。文例をご自身の状況に置き換えて作成してみてください。
以下、まとめている遺言書の文例をご紹介します。ご確認したい内容を、下記一覧にてクリック(選択)してください。
- すべての財産を妻(または夫)に相続させる(子供がいない夫婦)
- すべての財産を妻(または夫)に相続させる(子供がいる夫婦)
- 内縁の妻(夫)に財産を遺す
- 再婚相手の連れ子に財産を遺す
- 子がいるが父母にも財産を遺したい
- 息子の嫁(または娘の婿)に財産を遺す
- 甥、姪に財産を遺す
- 財産を自治体や法人、団体などへ寄付する
- 非嫡出子(婚外子)を認知して財産を相続させる
- 家族の世話を条件として遺産を与える(負担付遺贈)
- ペットの世話を条件として遺産を与える(負担付遺贈)
- 土地、建物(不動産)及び建物内の全ての財産(家財)を相続させる
- 区分所有建物(分譲マンション)を相続させる
- 借地権を相続させる、または遺贈する
- 農地を相続させる
- 預貯金(預金債権、貯金債権)を相続させる
- 株式、投資信託、国債などの有価証券を相続させる
- 自動車を相続させる
- 絵画、書画、骨董品などを相続させる
- 宝石や貴金属などの高価な物品を換金して相続させる
- 子供の相続分に差がある場合(付言事項の記載例)
- 借金などの負債を相続させる「割合」を指定する
- 祭祀主宰者を指定する
- 遺産を与えたくない推定相続人を廃除する
- 予備的遺言を書く
- 遺言執行者を指定する
- 未成年後見人、未成年後見監督人を指定する
- 生命保険金の受取人を変更する
遺言書で相続人が争わないための7つのポイント
遺言書の書き方によっては、相続の場で相続人が争うことになる恐れがあります。
ここでは、相続人が争わなくてすむように、遺言書を書く上で気に留めていただきたい事項をご紹介していきます。
それが以下に示します7つの事項です。
- 遺言書には意思を明確に記載する
- 遺言執行者を指定する
- 相続人の遺留分に配慮して書く
- 遺言の理由を「付言」として記載する
- 万が一に備えて予備的遺言をしておく
- 本人の筆跡がわかるメモを同封する
- 遺言書作成の様子をビデオで録画する
① 遺言書には意思を明確に記載する
遺言書には必ず本人の意思を明確に記載しましょう。曖昧な表現があったり、言葉足らずな場合、相続人の間で解釈に違いができ、最悪は争いの種となってしまいます。
一般的に自分にとって都合のよいように解釈するためです。ですので、解釈の仕方によっては、いくつかの意味にとれるような曖昧な表現は避けましょう。
② 遺言執行者を指定する
遺言書には遺言執行者の指定についても記載しておくと良いです。
遺言執行者とは、遺言者の死後、遺言内容を執行(実現)する者のことです。法律の専門家を指定することもできますし、長男などの家族を指定することもできます。
遺言執行者が選任されることで、相続手続きが円滑に進むようになるので、可能な限り指定しておきましょう。
遺言執行者の職務、権限・義務、報酬などについては「遺言執行者とは?権限と義務、職務内容、選任申立から報酬を解説!」で詳しく解説しています。
遺言執行者の指定をする遺言書の文例については、先ほどの文例一覧の中でご紹介しています。ご覧ください。
③ 相続人の遺留分に配慮して書く
突然ですが、次のような遺言書があったとします。果たして相続人(遺族)は納得するでしょうか。
- 私の全財産を愛人のA子に遺贈する
当然納得できず、争いは避けられません。理由は、相続人に保障された遺留分を侵害しているためです。
遺留分とは、相続人に保障された最低限の遺産の取り分のことをいいます。
上のような遺言書の場合、相続人には1円たりとも入ってきませんので、当然相続人の遺留分を侵害しています。
このようなケースでは、遺留分を侵害された相続人は、侵害している相手(例ならA子)に対して、遺留分の請求をすることができます。つまり争いとなってしまうのです。
遺言書は遺言者の最後の意思表示なので、できるだけ本人の意思が尊重されるべきです。ですが、このケースのように相続人の遺留分を侵害する遺言は、争いを生んでしまうことがあります。できれば相続人の遺留分に配慮した遺言にされることをおすすめします。
遺留分の計算方法と、遺留分請求の方法について、より詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
おすすめ【法定相続人の遺留分】仕組み・計算方法・侵害額請求の方法を解説④ 遺言の理由を「付言」として記載する
遺言書には、財産相続に関する事項以外にも、付言といって法的効力は生じないけれども、相続人(遺族)に伝えたいことを書くことができます。
付言として書かれる主な内容は、相続人や遺族への感謝の言葉、遺言書を作成した理由、長男に遺産の多くを相続させることにした理由、などなど様々です。
そのように遺言書を作成した理由を丁寧に付言として書いておくことで、遺言者の気持ちが伝わり、相続の場でも余計な争いを回避することができます。
ですので、財産相続に関する事務的な内容以外にも、付言として伝えたいことを書いておくことをおすすめします。
※付言の記載例については、上でご紹介した文例一覧の中からご覧ください。
⑤ 万が一に備えて予備的遺言をしておく
予備的遺言というのは、遺言書の内容が実現しなくなるのを防ぐ目的で書く遺言です。
たとえば、遺言者が配偶者に全財産を相続させる遺言を書いたとします。ですが遺言者が亡くなる直前に配偶者が亡くなってしまったら、遺言書の内容はどうなるでしょうか。
結論として、この遺言は無効となります。財産の帰属先であった配偶者が先に亡くなっているためです。
このような事態を避ける目的で、次のように書いておくのが予備的遺言です。
上のように書いておけば、遺言者の意思をより尊重させることができます。
⑥ 本人の筆跡がわかるメモを同封する
遺言を執行するタイミングになって、たびたび起こる争いが遺言書の筆跡についてです。当然ながら、遺言書は本人が作成しなければ無効です。家族が勝手に本人の名前で作成した遺言書なんてものは当然無効なのですね。
そして、相続で「遺言書の筆跡が本人のものではない!」と主張する相続人がいる場合、そのまま執行できないので、裁判になる可能性もあります。
ですが、そもそも筆跡とは加齢や病気を原因として変化することも十分考えられます。
そこで対策としては、遺言書を作成した頃の筆跡がわかるメモ書きなども一緒に添えておくことです。
確実に本人の筆跡を表しているメモ書きがあれば、万が一にも筆跡鑑定をする運びとなったときも証拠として提出できるからです。
⑦ 遺言書作成の様子をビデオで録画する
遺言書を作成している様子をビデオで撮影しておくこともかなり有効です。これなら確実に本人が作成した遺言書であることがわかります。
遺言書を封筒に入れるべき?封筒の見本と封印
遺言書を作成したら、封筒に入れて封印をするべきかどうか悩まれる方が多いと思います。
まず結論から言いますと、遺言書は封筒に入れずとも有効です。紙のまま保管していても、形式上無効となることはありません。封印についても同様です。
ですが、できれば封筒に入れ、しっかり糊付けし、封印までされることをおすすめします。理由は、悪意の第三者によって遺言書を偽造、変造されるのを防ぐためです。
遺言書を封筒に入れ、封印をすることのメリット・デメリットを「【遺言書】封筒の書き方(見本)|封筒ないと無効?封印は開封厳禁?」でまとめています。よければご覧ください。
作成した遺言書を撤回したいとき
遺言書は一度作成した後でも、いつでも撤回することができます。
完全に撤回するなら破棄すれば良いですし、一部撤回したいのであれば、新しく遺言書を作り直すことで行います。遺言書の作成日から、より新しい日付で作成された遺言書が有効となります。
ここで注意していただきたいこととして、公正証書遺言の撤回は必ず遺言書を作成し直す方法で行ってください。ただ丸めて捨てるだけではダメです。
理由は、公正証書遺言の原本が公証役場で保管されているため、手元にある正本や謄本を破棄するだけでは、原本になんの影響もないためです。そのため、新しい日付で作成し直すことによる撤回方法をとる必要があります。
なお、公正証書遺言の撤回だからといって、再び公正証書遺言で行う必要はありません。今度は自筆証書遺言でも問題ありません。
遺言書の撤回とやり方について、より詳しく知りたい方は「公正証書遺言の撤回は要注意!撤回の撤回はできない?」をご覧ください。
自筆証書遺言・秘密証書遺言で必要な「検認」とは
自筆証書遺言と秘密証書遺言については、遺言者の死後、速やかに家庭裁判所の検認を受けなければなりません。検認が終わっていない遺言書は執行することができません。
検認の主な目的は次のとおりです。
- 遺言書が本当に被相続人(亡くなられた方)が書いたものか確認する
- 遺言書の存在と内容を利害関係者(相続人含む)に知らせる
- 遺言書の偽造・変造を防ぎ確実に保存する
公正証書遺言については検認は不要なので、すぐに執行することが可能です。理由は、公正証書遺言は原本が公証役場で保管されるため、証拠保全ができているためです。
検認は家庭裁判所へ申立を行い進めていくので、申立書の記入などが必要となります。くわしくは「検認とは?遺言書の検認手続き、裁判所への申立書の書き方、必要書類を解説」で解説しています。
自筆証書遺言の保管制度について
平成30年7月6日に「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。公布日は同年7月13日です。
この法律により、これまで自ら保管しなければならなかった自筆証書遺言の保管を法務局に依頼することができるようになります。秘密証書遺言は対象外です。
保管申請を行った遺言者はいつでも保管の撤回ができ、さらに保管された遺言書の閲覧請求もできます。
また、自筆証書遺言は検認が必要でしたが、保管所で保管されている遺言書については検認は不要となります。理由は、遺言書の保全、相続人への通知といった検認の目的が、この制度の下でカバーされるためです。
自筆証書遺言の保管制度に関してよりくわしい解説は「法務局での「自筆証書遺言の保管制度」の仕組み、施行日、手数料は?」でしています。
知っておくと得すること
以下、遺言書を作成する上で知っておくと得する内容をご紹介していきます。
「遺言書」と「遺書」の違い
遺言書と遺書の違いをご存知でしょうか。
辞書で調べると、どちらも似たような意味となります。ですが、一般的に両者の違いは次のとおりです。
遺言書:死後に法的効力を生じさせる目的で、遺産相続に関する事項を書いておく
遺書:自殺する直前に加害者への悔しい感情、家族への想いなどを書いておく
こうして見ると、遺言書と遺書ではまったく異なる書面であることがおわかりになるかと思います。さらに言えば、遺言書は元気なうちに書いておくもの、遺書は亡くなる直前に書くものですね。
よく遺言書と聞くと、「縁起が悪い」と考えられる方がいらっしゃいます。ですが、むしろ縁起が悪いのは”遺書”の方で、遺言書は元気なうちに将来を見据えて書くものなのです。遺言書はある意味で保険のようなものです。
両者の違いをより詳しく「【今さら聞けない】遺言書と遺書の大きな違い【縁起悪いのは遺書?】」で解説しています。
「相続させる」と「遺贈する」の違い
遺言書を書く段階になって迷うのが、「相続させる」と「遺贈する」の言葉の使い分けかと思います。どちらも財産を相手に与える行為だからです。
結論から言いますと、次のようにするのが良いです。
相手が相続人:相続させる
相手が相続人以外:遺贈する
相続した不動産の登記申請をする上でも、「相続させる」遺言により不動産を承継した相続人は、登記申請を単独でできるなどメリットがあります。
この点についてより詳しく知りたい方は「相続させる旨の遺言とは?法的性質と遺贈との違い、登記と対抗要件について」をご覧ください。
まとめ
遺言書とは、何ができる?というところから書き方、文例、撤回まで、遺言書に関する知識をかなり詰め込んできました。記事の執筆にかなりの時間を要しましたが、その分読んでいただくのもかなり大変かと思います。そこはご容赦ください。
この記事を書こうと思った理由は、遺言書の重要性が指摘されている今、少しでも多くの方に専門家に頼ることなく自発的に遺言書を作成していただきたいと考えたからです。専門家に依頼するのは敷居が高い、という方がいらっしゃると判断した結果です。
この記事をより大勢の方にお読みいただき、将来に備えて元気なうちに一人一通の遺言書を書くのが当たり前、という時代が来ることを切に願います。
要チェック! 相続、遺言の基礎知識まとめ(カテゴリーごとに解説します)
相続、遺言について深く学ばれたい方はぜひご確認ください。